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汲古叢書85 中国古代国家と社会システム

長江流域出土資料の研究

汲古叢書85 中国古代国家と社会システム

出土文字資料の分析から、古代中国社会の原型を理解する!

著者 藤田 勝久
ジャンル 東洋史(アジア) > 殷周秦漢
シリーズ 汲古叢書
出版年月日 2009/09/25
ISBN 9784762925849
判型・ページ数 A5・580ページ
定価 14,300円(本体13,000円+税)
在庫 在庫あり
 

内容説明

【あとがき】より

 本書は、中国文明の原型となる秦漢時代について、とくに統一国家の成立と地域社会の実態を考察したものである。それと同時に、長江流域の出土資料を整理して、漢簡とあわせた中国古代の資料学を構築する基礎にしたいと考えた。主な対象としたのは、戦国時代の包山楚簡と睡虎地秦簡、秦代の里耶秦簡、漢代の張家山漢簡「津関令」である。とりあげた資料は、暦、紀年資料、系譜、文書の処理をする簡牘、符券、付札(楬)、壁書と扁書、交通に関する伝と致、告地策、地名里程簡、書籍、書信と名謁などである。その内容は、二〇〇三年以降に発表した論文を基礎にしているが、細部の解釈をのぞいて大きな論点は変更していない。里耶秦簡は、当初に『文物』に公表された資料をもとに分析し、のちに『里耶発掘報告』によって再論したため重複もみられるが、あえて部分的な整理にとどめている。また本書では、歴史学以外の分野や、日本古代の木簡研究との比較を意識しており、他分野の方にも分かるように概略を述べたところがある。

中国の出土資料は、画像テキストと釈文・考証や、多くの研究成果が蓄積されている。また今も発掘と公開がつづいており、その全体はなかなか展望しにくい状況である。里耶秦簡も、わずかな資料が公開されているにすぎない。こうしたなかで大まかな総括を試みるのは、個別の研究や集成を整えたうえですべきであり、時期尚早という見方があるかもしれない。しかし研究の細分化によって、ますます全体がみえにくくなることも予想される。そこで従来の簡牘文書学や出土文献学の論点とはちがって、サンプルとなる簡牘の機能や情報伝達の原理からみれば、まだ公表されていない資料をふくめて、簡牘のパターンが推測できるのではないかと考えたのである。さらに秦代では、地方行政の体系が成立しているにもかかわらず、同時に不正に対処する命令が出されていた。これは秦の占領統治に対して、地域社会の人々と共存する問題点となり、情報社会に対する現代的な意義を示唆している。本書は、ささやかな考察であるが、こうした中国の国家と社会システムの特質を考える一助になれば幸いである。

 

【内容目次】

序 章 中国出土資料と古代社会―情報伝達の視点から―

一 中国の出土資料について            

二 地方の官府とその周辺

 三 出土資料の形態と機能

第一章 中国古代の秦と巴蜀、楚―長江流域の地域社会―

一 秦の統一と出土資料            

二 文書の伝達―秦と楚の文書について―

三 書籍の伝達―所有者と書写する人々―  

四 秦漢王朝と巴蜀、楚の社会

第二章 包山楚簡と楚国の情報伝達―紀年と社会システム―

一 楚暦と卜筮祭祷簡           

二 文書簡の情報システム(一)処理の控え

三 文書簡の情報システム(二)さまざまな案件

第三章 戦国秦の南郡統治と地方社会―睡虎地秦簡と周家台秦墓―

一 南郡の統治と睡虎地秦簡            

二 睡虎地秦簡にみえる地方統治

三 南郡の動向と周家台秦墓

第四章 里耶秦簡と秦代郡県の社会

一 里耶秦簡の年代と暦譜             

二 行政文書の形態と伝達

三 秦代郡県の官府と社会

第五章 里耶秦簡の文書形態と情報処理

一 遷陵県をめぐる文書と記録           

二 ⑨1~12文書の内容について

    三 文書の処理と保存

第六章 里耶秦簡の文書と情報システム

一 秦代の文書システム―処理と保存―   

二 里耶秦簡の情報システム―管理と運営―

三 秦王朝の社会システム

第七章 里耶秦簡の記録と実務資料―文字による地方官府の運営―

一 文書楬と笥牌の用途           

二 居延漢簡の文書楬と機能

三 文書の伝達と処理の控え        

四 文字資料による実務の運営

第八章 長江流域社会と張家山漢簡

一 張家山漢墓の竹簡について           

二 張家山漢簡の情報

三 秦漢統一国家と情報伝達

第九章 張家山漢簡「津関令」と詔書の伝達

一 漢代詔書の作成と発信             

二 『史記』『漢書』の詔書

三 詔書の伝達と受容

第十章 張家山漢簡「津関令」と漢墓簡牘―伝と致の用途―

一 漢代の交通と伝の形態             

二 伝と「致」の形態―随行の証明書

三 関所の通行と漢墓簡牘

第十一章 秦漢時代の交通と情報伝達―公文書と人の移動―

一 地名里程簡をめぐって           

二 尹湾漢墓簡牘にみえる交通

三 交通と情報伝達

第十二章 中国古代の書信と情報伝達

一 『史記』にみえる書信       

二 帛書『戦国縦横家書』の書信

三 睡虎地四号秦墓の書信       

四 漢代の書信と名謁

終 章 中国古代の社会と情報伝達

一 中央と地方の情報―文書行政    

二 地方社会の情報

三 交通と往来による情報       

四 中国古代の社会システム

おわりに―簡牘・帛書から紙へ

付 篇 里耶秦簡の釈文

あとがき・初出一覧・出土資料文献目録

     索引(文献・出土資料、事項)

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