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明清小説における女性像の研究

―族譜による分析を中心に―

明清小説における女性像の研究

東方学会賞受賞論文ほか、族譜や小説に現れる社会通念を分析手段に明清時代の女性像を解明する

著者 仙石 知子
ジャンル 東洋史(アジア) > 明清
出版年月日 2011/07/21
ISBN 9784762929618
判型・ページ数 A5・322ページ
定価 4,400円(本体4,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

【内容目次】
序 章 明清小説における女性像と族譜
 第一節 女性史研究と明清小説
  女性史研究の現在/明清時代の女性像/明清小説に見られる女性像
 第二節 族譜と明清小説
  族譜の歴史的展開/族譜の有用性/族譜に基づく明清小説の分析
第一章 孝と貞節
 第一節 族譜に見られる宗法制度上の女性の役割
  族譜に見られる婦女貞節の教え/再婚で宗を出る女性の族譜記載方法から見た女性の実相/族譜から見た宗法社会における男女の役割
 第二節 孝の優越性と明清小説
   「蔡瑞虹忍辱報仇」における孝と貞節の加筆/明清社会における孝と貞節/孝と貞節の両立/孝の実践に対する評価における男女差
第二章 継 嗣
 第一節 族譜に見られる継嗣に関する社会通念
  継嗣に関する法令/同姓養子の重視/絶嗣の回避
 第二節 「三言二拍」に見られる継嗣問題
  同姓養子への書き換え/小説における「同姓養子」の役割/娘婿の財産継承/「応継」と「愛継」
第三章 女 児
 第一節 族譜における宗族の女児観
  妾の記載と子供を生むこと/「子」と「女」を並記/男児と女児を示す「子」
 第二節 宗族における女児の役割
  母の立場を変える女児――「母以子貴」/婚戚関係を作り出す女児/血統を絶やさない女児
 第三節 明清小説に見られる女児
  財産承継問題/父の血統の断絶を回避
第四章 妻 妾
 第一節 法令と族譜に見られる妻妾の序列化
 第二節 『醒世姻縁伝』に見られる妻妾
 第三節 妻の子供の有無により変わる妾の立場
 第四節 嫡子と庶子に対する社会通念の小説への反映
第五章 女性の名
 第一節 前近代中国の記録に見える女性の名
  墓誌銘や伝に見える女性の名の記録体裁/小説に見られる女性の名/族譜における女性の名に関する規定
 第二節 名の本質的機能と役割について
  「順次を示す字」と「親族称謂語」による女性の名/男性の排行による名の機能と役割から見た女性の名/小説に見られる礼的秩序を明示する機能と役割を持った女性の名
 第三節 前近代中国の女性の名のあり方
  女性の名に見える輩行字/小説に見られる輩行字による名/輩行字による名と人物の価値/  輩行字による女性の名の小説への影響
 第四節 礼的秩序による必要性から産出された女性の名――妓女や下女の場合
第六章 不再娶
 第一節 継嗣問題と不再娶
 第二節 不再娶の動機
 第三節 小説における不再娶
終 章 明清小説における女性像と社会通念
 第一節 孝――宗族の維持
  貞節と不再娶/同姓・異姓養子と子・女
 第二節 礼――家族内秩序
  妻と妾/「順次を示す字」と「親族称謂語」による名
 族譜所蔵目録/文献表/あとがき

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内容説明

【本書より】

本書は、明清小説に描かれた女性像を主として族譜から抽出した社会通念によって分析することで、明清小説の文学性を考究するとともに、明清社会における女性のあり方の一端を解明するものである。これから提示する方法論に述べるように、明清小説は、必ずしも明清社会の現実をそのまま描いているわけではない。明清小説から、明清社会における女性像をそのまま復元することはできないのである。しかし、明清小説は、まったくの虚構により描かれたものでもない。明清小説は、物語に感動性を与え、虚構に説得力をもたせるために、明清時代における社会通念を反映させている。物語のおもしろさや表現技法の巧みさから受ける感動を小説の文学性と呼び得るのであれば、明清小説は、明清時代における社会通念を背景とすることで、その文学性を高めているのである。明清時代における社会通念を追求するためには、様々な方法論が存在しよう。本書では、それを族譜の分析に求めた。後述のように、族譜は、系譜の部分に信用性を疑わせる部分があっても、宗族の規範を示す族規や凡例の部分には、当該時代の当該宗族が持っていた社会通念が反映している。また、現存する族譜の多くは、書かれた時期・地域・書き手の階層などに、明清小説との共通性が見られる。

 中国女性史研究では、前近代中国の女性が単に抑圧されるだけの弱者ではなく、儒教的観念に見られる理念と実態の間に大きな格差があることを踏まえ、女性の総体的全体像を解明するという新しい段階へ向かっている。ところが、明清女性史研究に限って言えば、刑法・財産継承権・貞節観念・家訓などの様々な面において、明清時代の女性は、革命後は言うまでもなく、それ以前よりも恵まれてはいなかったと捉えられている。しかし、明末清初に作られた白話小説の中には、ある程度の自主性を持って生きる女性を描くものもある。それは、当時の宗法制度が、そうした女性像を許容する社会通念を持っていたためではないか。本書は、かかる仮説を実証するために、明清時代の小説を創作・受容していた階層において、女性がいかなる社会通念に規制されていたのかを理解する、という方法論を取り、仮説を実証する手段として族譜を用いる。

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