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唐宋伝奇戯劇考

唐宋伝奇戯劇考

作品を丹念に解析し、その周辺・背景を探り唐宋伝奇小説と宋元の演劇・詩文について考察する

著者 岡本不二明
ジャンル 中国古典(文学)
中国古典(文学) > 唐宋元
出版年月日 2011/10/29
ISBN 9784762929687
判型・ページ数 A5・530ページ
定価 14,300円(本体13,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

第一部 唐代伝奇とその周辺
第一章 演劇的側面からみた唐代伝奇「柳毅伝」
   「柳毅伝」の粗筋/「柳毅伝」のモチーフ/伝書と叩樹/構成と舞台/龍女と柳毅/龍王と銭塘君/
    神々の戦いと戯劇
第二章 唐代伝奇と樹木信仰――槐の文化史――
   樹木の神秘性と聖性/樹下の夢と異人/樹木の空洞と異界/槐樹の象徴性/殷仲文故事/唐詩と樹木/
   唐代の槐樹伝説/「南柯太守伝」をめぐって
第三章 唐代伝奇「南柯太守伝」に於ける夢と時間の一考察
    夢と時間/時間記述をめぐって/「貌」か「楚」か
第四章 異類たちの饗宴――唐代伝奇「東陽夜怪録」を手がかりに――
    「東陽夜怪録」の不思議/神々の夜宴/器物の怪/六朝志怪にみえる夜怪
第五章 紅葉題詩故事の成立とその背景について
    唐宋の紅葉題詩故事/閉ざされた女性たち/唐代の宮女と上陽宮/樹葉と題詩/仏典と題葉/
    流水の民俗学
第六章 滄洲と滄浪――隠者のすみか――
    滄洲と子州支伯/詩語としての滄洲/唐詩に於ける滄洲/滄浪をめぐって
第七章 中国の名剣伝説――干将莫邪の説話をめぐって――※和田亜香里との共著
    古代の名剣/眉間尺故事/伍子胥の物語/復讐と俠客/古代の楚
第二部 唐宋の戯劇から元雑劇まで
第一章 唐宋の社会と戯劇――参軍戯、宋雑劇および禅の関係をめぐって――
    宋代の参軍戯/宋雑劇の成立/副浄の特徴/禅のパフォーマンスと戯劇/仏教と戯劇
第二章 斎郎考――宋代歌舞戯をめぐる一問題――
    「春社詩」読解/斎郎踊りとは/十斎郎とは 
第三章 黄庭堅「跛奚移文」考
    「跛奚移文」を読む/古代の僮僕たち/士人と奴婢/弟叔達
第四章 黄庭堅と南柯夢――「蟻蝶図詩」をめぐって――
    「蟻蝶図詩」の読み方/蝶と蜘蛛/蟻のメタファー/題画詩としての「蟻蝶図詩」
第五章 王侯と螻蟻――昆虫たちの文学誌――
    杜甫と宋詩/蝸牛と蟻
第六章 宋代都市に於ける芸能と犯罪
    唐代の芸能と担い手たち/宋代の芸能/宋代の社会と犯罪
第七章 閨怨と負心のドラマ――元雑劇「臨江駅瀟湘秋夜雨」の考察――
    「瀟湘雨」の粗筋/父親張天覚/正旦翠鸞/「瀟湘雨」の演劇性/秦川県/臨江駅と瀟湘
書評篇 其一 張鴻?『敦煌俗文学研究』  其二 陳珏『初唐伝奇文鈎沈』
資料篇 「王魁」関係資料『養生必用方』について ※木村直子との共著
    「王魁」の物語/初虞世『養生必用方』/葉廷琯抄本について/陸氏序/葉氏跋/
    『開有益斎読書志』記載の『養生必用方』/後序/王狀元任先生文大夫服碧霞丹致死狀
あとがき/英文要旨

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内容説明

【序文】より(抜粋)

本書『唐宋伝奇戯劇考』は、拙著『唐宋の小と社會』(汲古書院、二〇〇三年)に引き続き、唐代の伝奇小説と宋元の演劇や詩文について、主としてここ十年ほどの間に発表した論文をまとめたものである。

 唐代伝奇小説が、中国古典小説の歴史の上で、最初に到来した精華であることは間違いあるまい。そのロマンスと怪奇と抒情に満ちた世界を、前著では「李娃伝」「東城老父伝」「馮燕伝」「河間伝」「李赤伝」「無双伝」「離魂記」を取り上げて考察したが、本書第一部「唐代伝奇とその周辺」ではそれに引き続き、「柳毅伝」「南柯太守伝」「東陽夜怪録」「紅葉題詩故事」についてそれぞれ物語的な分析を試み、さらに隠者をめぐる詩語を追跡した論文、干将莫邪の名剣伝説に関する論文を加えた。各章の考察方法は対象となる作品によって異なるが、作品そのものをできるだけ丹念に解析し、その周辺や背景を探り、時には祖型を求めてさかのぼるというスタイルをとった。以下簡単に紹介しよう。

 第一章「演劇的な側面からみた唐代伝奇「柳毅伝」」は、唐代伝奇小説「柳毅伝」をとりあげ、そのモチーフを虐待・伝書・報復・謝礼・降嫁の五つにしぼって類話と比較検討し、さらに登場人物の描かれ方、恋愛小説的な要素、民間伝承と神話的な背景について、従来見逃されてきた演劇的な視点から分析をおこなった。

第二章「唐代伝奇と樹木信仰――槐の文化史――」は、中国に於ける歴史的な樹木信仰の中で、唐代伝奇「南柯太守伝」がどのように成立したのかを考察した。具体的には小説中で重要な設定である槐(エンジュ)が、詩文や政治や民俗等の分野で先秦から唐代までどのような意味を与えられてきたのかを通時的に追い、小説作品の深層にあるものを洞察した。

 第三章「唐代伝奇「南柯太守伝」に於ける夢と時間の一考察」は、「南柯太守伝」の夢と時間の記述をめぐり、「枕中記」と比較しながら、夢中の時系列が巧妙に設定されていることを論じ、また主人公が一度若返ってから夢に入るという、「枕中記」とは異なった時間構造を持っていることを指摘した。

 第四章「異類たちの饗宴――唐代伝奇「東陽夜怪録」を手がかりに――」は、異類たちが変身して夜宴を

くりひろげる唐代伝奇小説「東陽夜怪録」の主題と構想について考察した。全編に組み込まれた謎解きの意味を考え、また六朝志怪小説にみえる異類たちとの描かれ方の違いを検討した。

 第五章「紅葉題詩故事の成立とその背景について」は、唐代に宮女が王宮の濠に詩を記した紅葉を流すと、それを拾った士人が恋愛感情をいだきロマンスが生まれるという物語、いわゆる紅葉題詩故事が、その成立当初の中唐から物語として成熟する北宋まで、どのような過程を経たのかをたどり、さらに宮女の身分や実態、紙の代用としての葉、仏教の貝葉経典、紅葉の詩語の発生、曲水宴や七夕伝説との類似性等について詳述した。

 第六章「滄洲と滄浪――隠者のすみか――」は、滄洲と滄浪というそれぞれ出自を異にする二つの言葉が、微妙にもつれ合いながら六朝から唐代までの詩文にどのように受容されていったのかを調べた。白居易の詩から出発し、謝朓の詩、阮籍の牋文、『楚辞』とさかのぼり、隠者や隠遁を意味するこの二つの言葉の歴史的な変容について考察をめぐらした。

 第七章「中国の名剣伝説――干将莫邪の説話をめぐって――」は、中国古代の名剣にまつわる干将莫邪の伝説が、先秦から六朝にかけてどのように成立していったのかを追求した。

 第二部「唐宋の戯劇から元雑劇まで」は、宋代の詩文や芸能に関する論考を中心にして、元雑劇に至るまでを論じた。なお書名や題名に、「戯劇」という専門外の人にはやや馴染みの薄い漢語をあえて使ったが、これは「戯劇」の語が演劇、芸能、雑技、娯楽などを広くカバーすることを考慮したからである。

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