ホーム > 汲古叢書126 東晋南朝における傳統の創造

汲古叢書126 東晋南朝における傳統の創造

汲古叢書126 東晋南朝における傳統の創造

◎僑民の土着化に注目し、江南に立脚した独自の制度・思想を「軍事体制」・「天下観」から考察する

著者 戸川 貴行
ジャンル 東洋史(アジア)
東洋史(アジア) > 魏晋隋唐
シリーズ 汲古叢書
出版年月日 2015/03/26
ISBN 9784762960253
判型・ページ数 A5・226ページ
定価 6,600円(本体6,000円+税)
在庫 在庫あり
 

内容説明

 

【主要目次】
序 章
第一編 東晉南朝の軍事体制


 第一章 魏晉南朝の民爵賜与について


  第一節 軍功賜爵と兵制、財政の関係


  第二節 民爵賜与と籍田儀礼


 第二章 東晉、宋初の「五等爵」について

            ―民爵との関連を中心としてみた―


  第一節 「五等爵」と劉裕起義の関係


  第二節 「五等爵」の実態


 第三章 劉宋孝武帝の戸籍制度改革について


  第一節 詔における「伐蛮の家」の実体


  第二節 「鰥貧疾老」の解釈と戸籍制度改革の意義


  第三節 黄籍戸への民爵賜与と戸籍制度改革に対する抵抗


 第四章 東晉南朝の建康における華林園について

            ―「詔獄」を中心としてみた―
  第一節 宋斉時代の華林園における「詔獄」


  第二節 華林園の軍事的機能


第二編 東晉南朝の天下観


 第一章 東晉南朝における天下観について

            ―王畿、神州の理解をめぐって―


  第一節 東晉前期の王畿、神州について


  第二節 東晉後期より劉宋文帝期までの王畿、神州について


 第二章 劉宋孝武帝の礼制改革について

            ―建康中心の天下観との関連からみた―


  第一節 明堂の建設


  第二節 五輅の製造


  第三節 南  巡


 第三章 東晉南朝における建康の中心化と国家儀礼の整備について


  第一節 東晉の建康と国家儀礼の関係


  第二節 南朝の建康と国家儀礼の関係


  第三節 江南政権における郊廟儀礼の実態


 第四章 東晉南朝における伝統の創造について

            ―楽曲編成を中心としてみた―


  第一節 劉宋孝武帝期における楽曲改革と中原恢復との関係


  第二節 劉宋孝武帝による楽曲改革が南北朝、隋唐に与えた影響


終 章


  あとがき・初出一覧・索 引

 

 

【序章】より(抜粋)

中国の歴史が漢族と北方の騎馬遊牧民との様々な交渉、抗争の展開であったことは周知の事柄であろう。

 そうした交渉、抗争は極めて古くから存在するが、とくに四世紀以降になると、北方の騎馬遊牧民が強力な騎馬軍によって中原を支配するといった現象が見られるようになる。その結果、漢族は避難先の江南で亡命政権を樹立した。三一八年に成立した東晉、続く宋、斉、梁、陳(以下、南朝とよぶ)はそうした漢族による政権である。東晉南朝史の研究には、歴史学の立場からみたとき主として二つの研究方法が存在する。その一つは貴族制に関する研究であり、貴族の大土地所有、婚姻関係、彼らが累世官僚となる官吏登用法(九品官人法)、貴族とその社会的基盤とされる宗族、郷党の関係など、様々な視角から行われた。ただし、こうした研究にも問題点があるように思われる。他方、貴族制はこの時代のすべての現象に関係するものでなく、「貴族制以外に存在する多くの貴族制と無関係な制度や存在と並存するような一制度にすぎない」という考え方も存在する。これが研究方法の二である。しかし、右の視角にも問題がないわけではない。なぜなら貴族制以外の制度や存在が相互に関連せずただ雑多に並存するだけでは、この時代を特徴づける新たな研究は生まれないと考えられるからである。では、こうした研究方法上の問題を克服するためには、その他に如何なる方法が考えられるであろうか。その問いに対する解答の一つとして、筆者は本書において僑民の土着化という点に注目した。東晉は華北からの避難民によって樹立されたが、こうした避難民は僑民と呼ばれている。

 彼らは当初、中原の制度・思想により江南を支配したが、そうした制度・思想は彼らの江南への土着化につれ変化して行く。その結果、僑民の二世、三世の中には祖先の故郷である中原ではなく、自らが生まれ育った江南に親近感を覚える者が生じるようになる。とすれば、このような僑民の土着化とともに、中原ではなく江南に立脚した制度・思想の出現も想定されるであろう。

 本書はかかる問題を軍事体制、天下観といった視角から考察しようとするものである。より具体的に述べれば、東晉王朝の軍事体制、天下観はともに中原の重視という点で僑民の存在と深く関わっていたが、それが土着化とともに如何に変化するのかを明らかにし得れば、右の問題の解明につながるであろう。以下ではこうした問題意識の下、①東晉南朝における軍事体制は如何なるものであり、それはどのように変化したのか、②中原恢復の可能性が低下していくなかで、王朝の天下観には如何なる変化があったのか追求する。伝統文化が中原恢復という軍事目標を掲げた東晉ではほぼ喪失、忘却されたという、これまでになかった新たな視点から再検討し、それが僑民の土着化、ひいては建康を天下の中心とする考えとともにどのようにして再構築され、南朝をへて後に中国を再統一する隋唐に影響を与えたのかについて論じる。

 本書は、かかる軍事体制と天下観の関係如何といった問題を考察し、もって中国古代における伝統の創造が如何になされたのかについてその一端を解明せんとするものである。

このページのトップへ