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『夷堅志』訳注 甲志上

目次

前 言(齋藤 茂)
巻一:孫九鼎/柳將軍/寶樓閣呪/三河村人/鐵塔神/觀音偈/劉廂使妻/天台取經/冰龜/阿保機射龍/冷山龍
/熙州龍/酒駝香龜/僞齊咎證/犬異/石氏女/王天常/黑風大王/韓郡王薦士
巻二:張夫人/宗立本小兒/齊宜哥救母/(欠題)/陳苗二守/鼈報/玉津三道士/陸氏負約/張彥澤遁甲/謝與
權醫/趙表之子報/神吿方/詩謎/武承規/崔祖武
巻三:萬歲丹/李辛償冤/陳氏前夫/李尙仁/段宰妾/竇道人/祝大伯/鄭氏得子/邵南神術
巻四:鄭鄰再生/吳小員外/鼠災/李乙再生/宋叔海夢/蔣保亡母/兪一公/方客遇盜/水府判官/陳五鰍報/侯
   元功詞/驛舍怪/孫巨源官職/胡克己夢/項宋英/江心寺震
(巻五~巻十の目次は省略)
索 引(人物・地名)

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内容説明

【前言】より(抜粋)

不思議な出来事の記録は、古くから史書の中に残されてきた。『春秋左氏傳』には「大豕」が人立して啼き(莊公八年)、晉の魏楡で石が物言う(昭公八年)ことが記され、また『史記』巻一〇七「魏其武安侯傳」では、田蚡が竇嬰と灌夫の霊に取り殺されたことを窺わせている。不思議なことでも、あり得べきと認識されれば史実に含められて記録されたのである。そうであれば、現存する最古の小説集と言われる『搜神記』が、西晉の史官である干寶の手によって編纂されたのも、むしろ当然の成り行きと言えるのかもしれない。そして同様の書物が次々と生まれ、不思議な出来事、珍しい話を記すことが、「志怪」と呼ばれる文学ジャンルとして独立する。そこに『世說新語』に代表される、人物の言行を記録した所謂「志人」小説の流れが加わり、また仏教説話も加わって、小説の世界は六朝後期には豊かな内容を備えるに至る。

  唐代に入ると、題材の珍しさ、不思議さだけでなく、それを記す叙述の巧みさにも関心が向くようになり、記録性のみならず文学性をも重視されるようになった。さらに九世紀前半には男女の愛情が大きなテーマとなり、元稹の「鶯鶯傳」、白行簡の「李娃傳」など著名な文学者の手になる作品も多数生まれて、ここに「伝奇」と呼ばれる新たなジャンルが登場した。「小説」を近代的な概念に則して考えるなら、この「伝奇」に至ってそれに近いものが現れたと言って良い。恋愛譚だけでなく、変身譚、胡人採宝譚など、テーマも多岐に亙っている。しかし、文章力を問われる「伝奇」は唐王朝の衰退と共に作品数を減少させ、宋代に入って巷で流行していた語り物が都市部の勾欄での芸能へと発展するに伴い、やがては白話小説に主役の座を奪われることになる。宋の太宗の勅命を受け、太平興國三年(九七八)に李昉らがそれまでの「志怪」「伝奇」小説を集めて『太平廣記』五百巻を編纂したが、それは流行がひとつの区切りを迎えたことを象徴する出来事でもあった。事実、その後しばらくは低調となるが、靖康の難による宋室の南遷という事態を背景として、新たな「志怪」小説集が登場する。それが洪邁(一一二三―一二〇二)の編纂した『夷堅志』である。

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 本書は、宋代の社会状況を知る貴重な資料として『太平廣記』に匹敵する価値をもち、その内容は、「夢譚」・「再生譚」・「鬼譚」をはじめ風俗習慣・異聞・佚事など多方面に及び、各本文の末尾には事項の出処を明記している。本書には『夷堅志』甲志巻一から巻十までの訳注を収録し、以下、著者洪邁の著作と考えられる「甲志」から「丁志」までを全八巻の予定で公刊するものである。

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