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孫文の社会主義思想

――中国変革の道――

孫文の社会主義思想

互恵共生の世界を目指した、孫文の妥協的平和的漸進的変革の方法と思想を明らかにする

著者 安藤 久美子
ジャンル 東洋史(アジア)
東洋史(アジア) > 近現代
出版年月日 2013/06/15
ISBN 9784762965050
判型・ページ数 A5・486ページ
定価 14,300円(本体13,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

まえがき

序章 社会主義者として生きた孫文

第一部 孫文の社会主義思想

第一章 孫文の社会主義思想の特色――主としてソ連との相違――
 第一節 地権平均の着想と第二インターナショナル加入申請――辛亥革命前――
 第二節 民生主義の確立と社会主義建設構想――辛亥革命後――
 第三節 中国国民党第一回全国代表大会宣言とコミンテルン   
 第四節 「民生主義」講演
  
第二章 中国国民党第一回全国代表大会宣言と孫文思想
 第一節 ソ連政府とコミンテルンの国共合作に対する指示・工作
 第二節 中国国民党改組  
 第三節 「国民政府」組織の動きと「国民政府建国大綱」の提出
 第四節 民権主義の由来問題          
 第五節 土地革命綱領をめぐる論争
 第六節 企業の国有化をめぐる論争       
 第七節 反帝国主義綱領について
 第八節 国内少数民族の自決権承認問題  
 第九節 ソ連との反帝国主義統一戦線結成問題  
 第十節 「容共」問題

第三章 孫文の社会主義思想再論
 第一節 民衆の解放、民生の安定を求めて    
 第二節 具体的方法を求めて――科学的探究――
 第三節 社会主義者としてロシア革命を注視   
 第四節 孫文を社会主義者と見る説
 第五節 「人民自ら己を治める政治」を求めて   
 第六節 孫文とルソー、その酷似する平等観

第二部 中国同盟会左派の思想と辛亥革命
 
第一章 孫文派の土地国有論と辛亥革命
 第一節 戦後日本における辛亥革命評価     
 第二節 戦後日本における孫文観
 第三節 孫文の地権平均論における諸問題    
 第四節 『民報』の土地国有論
  
第二章 孫文の民族主義と辛亥革命――その反帝国主義的意義について――
 第一節 反満革命論の形成過程――どのようにして独立するか――
 第二節 孫文の反満革命論の展開        
 第三節 孫文の帝国主義観
 第四節 孫文の対日観             
 第五節 辛亥革命と孫文の外交
  
第三章 孫文の外資導入論と反帝国主義革命構想
 第一節 辛亥革命に向けて           
 第二節 辛亥革命時における欧米での外交
 第三節 南京臨時政府の外交          
 第四節 外資導入論の展開
 第五節 日中提携論              
 第六節 「物質建設」における外資導入論

第四章 辛亥革命運動と帝国主義――列強の海関管理に反対する運動から善後借款反対運動へ――
 第一節 帝国主義列強が見た辛亥革命運動    
 第二節 帝国主義列強の武力包囲
 第三節 帝国主義列強の海関管理権強奪と抵抗運動
 第四節 南北和議交渉と列強の干渉
 第五節 善後借款反対運動           
 第六節 孫文の闘い――むすびに代えて―― 

第五章 民権主義と孫文思想
 第一節 興中会時代の民権主義         
 第二節 中国同盟会時代の民権主義
 第三節 辛亥革命後の民権主義の展開     
 第四節 孫文の人間観
 第五節 五権憲法と臨時約法

第六章 孫文の 「五族共和」 批判と戴季陶の連邦共和制論
 第一節 孫文の民族主義            
 第二節 孫文の「五族共和」批判
 第三節 辛亥革命当時における「五族共和」の提唱
 第四節 戴季陶の連邦共和制の提唱

第七章 辛亥革命前後の戴季陶の共和思想
 第一節 辛亥革命前後の戴季陶思想の特色    
 第二節 戴季陶の清朝批判
 第三節 共和と自治と防外           
 第四節 地方分治論から連邦共和論へ
 第五節 戴季陶は「超国家主義者」か
 第六節 省長民選の主張――民国元年第一回総選挙に向けて――
 第七節 「民国政治論」と「民国存亡大問題」――人民全体の公意に基づく平民政治の主張――
 第八節 欧米社会批判と社会主義思想への共感  
 第九節 道徳と教育の重視、そして男女平等の主張
 第十節 「支那に於ける共和思想」と「支那に於ける共和制体」

第八章 陳其美と辛亥江浙革命 〈前編〉  辛亥革命前における陳其美をめぐって
 第一節 陳其美略歴              
 第二節 陳其美の浙江革命運動と光復会
 第三節 陳其美と帮会             
 第四節 陳其美と民族ブルジョアジー
 第五節 陳其美の軍事工作と李燮和との対立問題

第八章 陳其美と辛亥江浙革命 〈後編〉  辛亥江浙革命における陳其美をめぐって
 第一節 上海蜂起へ              
 第二節 上海軍政府の成立
 第三節 鎮江・南京革命と陶駿保銃殺事件    
 第四節 陶成章暗殺事件と浙江都督選出問題
 第五節 上海都督辞任要請と江蘇都督選出問題  
 補 節 大清銀行経理宋漢章逮捕事件

第九章 孫文臨時大総統選出と各省都督府代表連合会
 第一節 武昌起義直後の動き          
 第二節 各省都督府代表連合会の成立
 第三節 各省都督府代表連合会の動き      
 第四節 擁袁共和の惜陰堂画策と「国民会議」方式
 第五節 孫文臨時大総統選出

結 章 孫文思想の遺産

あとがき/初出論文一覧/索引(人名・事項)

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内容説明

 【序章より】(抜粋)

孫文は社会主義者として自覚的に生きた。民生主義を社会主義と説明し、三民主義は終始一貫変わらずといい続けた。それ故に、孫文思想を把握するには、孫文のいう社会主義がいかなる主義か、どのような目的を懐き、どのような方法で目的を実現しようとしたのかを把握する事が先決不可欠なことである。毛沢東はレーニンの見解を継承するとともに、三民主義を新旧に分け、ロシア革命と五四運動時期を境に質的に転換したと論じた。これは孫文の主張(社会主義であることと主義は一貫して不変であること)の否定である。レーニン主義と毛沢東主義の強い影響下にあった筆者であるが、この先決不可欠の作業を推し進める中で、次第に毛沢東の見解に対して違和感を強めていき、孫文は社会主義者として生きた偉大な思想家であったと認識するに至る。本書はその認識の変化の過程を記す書である。

筆者は、マルクス主義やレーニン主義の観点から指摘されるところの、孫文思想にある反封建主義反帝国主義の不徹底さ、妥協性等が、なぜ生じたのかを孫文思想そのものの中に追求していった。このように追求させたものは、おそらく宮崎滔天や萱野長知らが孫文に魅せられたものと同じであろうと思われる。それは革命運動初期における孫文の言葉の中にみえるもの、人民大衆に対する熱い信頼と深い同情、地主の農民収奪や官僚の不正など社会的不正義・不公平に対する漲る反抗心、帝国主義列強に対する激しい怒りとその支配から脱しようとする強い意志などである。それらは確かに反封建主義、反帝国主義、社会主義を目指す情熱を示しているように思えたのである。そこには妥協をしてそれで終わりとするような精神は微塵も見られなかった。その確信をもって、孫文の反封建主義と反帝国主義と社会主義建設という遠大な理想と当面の課題と当面の闘い方を、一体として把握しようと思い続けてきたのである。

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