ホーム > 山水と神怪

山水と神怪  これから出る本

――中国六朝の地域社会と説話

山水と神怪

◎『捜神記』『世説新語』のほか、地志や雑伝の逸話から、当時の地域社会の姿を多角的に描き出す。

著者 大平 幸代
ジャンル 中国古典(文学)
中国古典(文学) > 漢魏六朝
出版年月日 2026/04/27
ISBN 9784762967610
判型・ページ数 A5・388ページ
定価 12,100円(本体11,000円+税)
在庫 未刊・予約受付中
 

目次

序章  「土地の宜/快(よいところ)」の伝え方
一 赴任先はどんな土地か――西晋の陸雲と車永の往復書簡
二 山水を楽しむ人々――南朝の書簡・地志・志怪
三 晋末宋初の武人たちの北方体験――朱超石の兄への書簡
四 本書の構成および概要

Ⅰ 博物——未知の異物を語ること

第一章 火浣布をめぐる言説——魏晋における「異物」の記録と語りの世界
一 『典論』と火浣布
二 『抱朴子』と『捜神記』のねらい〔曹丕の博学と『典論』/『典論』の常理を超えた世界〕
三 孫呉の「異物」
四 東晋の火浣布論
第二章 博物の士「張華」像の変容——志怪および地志とのかかわり
一 張華の博物――その博識と政治家としての顔
二 博物の三国志――呉・蜀の異物
三 地志・別伝の中の張華――雷煥と張華の宝剣説話
四 張華と雷煥の位置づけの変化――「斑狐華表」の話

Ⅱ 山水——山中の神境を記すこと

第三章 悪道・迷路・弦歌——晋宋期の地志・志怪における山水と神仙の境
一 山中の悪道を行くこと――神明の実感〔悪道の奇観/悪道を行く隠士・道士〕
二 山中の迷路――神仙空間を成り立たせるもの〔人を迷わす山水――博物系志怪から山水系志怪へ/山水の霊力と怪事のバランス――地志から志怪へ〕
三 山中に流れる絃歌――遊仙空間の実体化〔青谿千餘仞――遊仙詩はいつから実景となったか/鶴の舞う神域の光景――地志の中の神仙の境/もうひとつの「山水の清音」――遊仙の弦歌/消えた琴歌――王質爛柯〕
第四章  『神境記』とは如何なる書か——廟の祭祀と山中の見聞
一 『神境記』という書物〔「神境」はどこか/編者は誰か〕
二 「神境」たる所以〔「神境」の要件/九疑の神境――舜廟の祭祀〕
三 山水と神異のとりあわせ――「神境」たる場所はいかに表現されるか
〔地志の山水と美文、そして神話/「神境」の空間演出〕
第五章 山水の中の「神境」と「人境」——「桃花源記」と荊湘の地志
一 地志の中の「神境」――山水の美と神異
〔地志の中の山川と人――羅含『湘中記』以前/神秘的な美の発見――羅含『湘中記』の山水/山水中の神霊と漁夫、官吏――羅含『湘中記』の人文風景/「神境」イメージの確立――王歆之『神境記』の山水と「神」/神境の広がり――袁山松『宜都記』による山水と人の発見〕
二 陶淵明「桃花源記」と山水地志
〔羅含と劉子驥――「人境」隠士の先達/「桃花源記」と荊湘の地志/桃花源の発見――山中の「迷」/洞中の「人境」――理想の田園生活/「桃花源」の拒絶と陶淵明の幻想――陶淵明にとっての「桃花源記」の意味〕

Ⅲ 北伐——従軍する武人の言行

第六章 劉裕の北伐をめぐる文学——晋宋革命を演出した人とことば
一 北伐の路線とその記録――従軍紀行を記す人々
〔北伐を記録した人々/北伐西征の記録の内容/紀行と天命〕
二 北伐と詩宴――貴族の風華
〔詩と文による装飾/彭城の戯馬台という仕掛け/詩の作る聖徳と風流〕
結びにかえて――「戯馬台」その後
第七章 逃げる武人と闇夜の光——晋末から劉宋前期の北伐と観世音応験譚
一 劉裕の北伐と仏教――劉宋における応験譚流行の基盤
〔北伐における僧侶の役割/「観世音応験記」と北伐の応験譚〕
二 北方での敗戦、逃亡と観世音の救済〔青泥――「車母」の逃走の背景、離散の記憶/滑台・虎牢――武将・毛徳祖をめぐる〈逃げる〉話〕
三 語られる武人と語る江淮の民
〔元嘉七年の北伐・その一――北伐の武将、王仲徳/元嘉七年の北伐・その二――「彭城の嫗」が象徴するもの、母の記憶/彭城の陥落前後――江淮の民の記憶〕
結びにかえて――元嘉二十七年の北伐と応験譚の変容

Ⅳ 世説——地域社会の語りと外部からのまなざし

第八章 「豫章太守・陳蕃」の徳行が語られるわけ——『世説新語』に見える地方官吏の文化
一 太守陳蕃――方峻から礼賢への変容
〔『世説新語』における陳蕃の「式閭」/陳蕃の「独榻」――豫章の徐孺子か、楽安の周璆か〕
二 処士徐孺子――後漢の処士と後世の隠士
〔後漢末の太守と処士/「処」の変質――徐孺子の弔問〕
三 「豫章太守」と徐孺子
四 晋宋時期における豫章の儒学と隠逸――『世説新語』の中の豫章
第九章  「曹娥碑」を語る人々——後漢から晋宋期における地方社会と説話
一 現存する文献の中の孝女曹娥        二 度尚と「曹娥碑」――立碑をめぐる話群
三 北方からみた「呉」および「会稽」     四 『会稽典録』にみる地方官衙の伝承
結びにかえて――神霊になった曹娥
終章 語られる場所、語る人々――再び会稽を例として
一 謝敷か戴逵か――会稽を代表する隠士    二 謝敷と孔霊符――会稽の開発と山水の神霊

初出一覧/あとがき/索引

このページのトップへ

内容説明

【序章より】
 本書では、おもに東晋から南朝宋(劉宋)において、ある地域の山水や怪異、土地をめぐる伝承が、どのように語られ、記録されたのかを見てゆく。ある地域の風俗や産物、あるいは山水美が記されるには、きっかけ――多くの場合、外部の人の存在――が必要である。県令や太守として見知らぬ土地に赴く者は、石季甫のようにあらかじめ情報を集めたであろうし、赴任した後にも地元の官吏に当地の歴史・地理、風俗を問うであろう。地元の名士・隠士との交流も生まれる。彼らの興味のありようは、地域の特徴を再認識する機会ともなったであろう。外部の人のまなざしは、土地の情報が集約され、中央に伝わる道筋をつけるとともに、新たな語りや記録を生み出すきっかけともなるのである。そうした語り、記す人々のおかれた時代状況、文化的環境を多角的に推し量ってみたい。
 なお、副題に用いた「説話」には、それを収載する書物の種類に制限を設けず、人や物、場所に関するエピソードを広く含むこととする。『捜神記』『幽明録』『異苑』などの志怪書、『語林』『世説新語』などのいわゆる志人小説(軼事小説)のほか、地志や雑伝、正史などの記述も含む。それらは本来、相互に参照されたはずであるから、可能な限り広く見渡し、逸話を繫いでいくことによって、単体では見えなかった立体的な像が見えてくるだろう。ただし、個々の書物が持っていた性質(どのような立場の人が、いかなる目的のために編んだ書か)を考慮に入れ、すべてを同等に扱うことはしない。
 本書では、全九章を、Ⅰ~Ⅳのテーマに分けた。「Ⅰ博物」は、「異物」の時代から「山水」の時代への変容をしめすための導入。「Ⅱ山水」で、南方の山水における美しい神境の発見とその記録について論じ、「Ⅲ北伐」では、北伐による南北の移動と、異なる階層の文武の士の交錯、そこに生じた物語(記憶)を再構築してみる。「Ⅳ世説」では、南方で語られた北の歴史的著名人に注目し、歴史物語が生まれ変容するさまをたどる。

このページのトップへ