目次
序 章 一 本書の目的と方法
二 仁和寺小史
三 仁和寺法親王の研究史
四 仁和寺文化圏の研究史
五 仁和寺和歌活動の研究史
六 本書の構成
第一編 御室の和歌世界
第一部 覚性法親王
第一章 『出観集』の編者と編纂目的――八四六番歌を端緒として――
一 はじめに
二 集の構成と待遇表現
三 八四六番歌の解釈
四 詞書の匿名性
五 詠歌年次
六 集の編者
七 集の成立年次
八 編纂目的
九 おわりに
第二章 『出観集』の構成と配列――原態自撰説――
一 はじめに
二 四季恋雑型構成の登場と『出観集』
三 『出観集』の[釈教][物名]の配置
四 四季部配列
五 集の原態
六 おわりに
第三章 覚性法親王歌壇再考――身内歌壇の可能性――
一 はじめに
二 覚性前史
三 覚性歌壇出詠歌人
四 覚性の立ち位置
五 覚性と貴顕との和歌交流
1閑院流との交流
2教長との交流
3崇徳院・二条天皇との交流
六 おわりに
第二部 守覚法親王
第一章 『北院御室御集』の成立時期――天王寺宮をめぐって――
一 はじめに
二 問題の所在
三 天王寺宮哀傷歌
四 天王寺宮と御八講
五 両系統の成立時期
六 編纂の動機
七 おわりに
第二章 『北院御室御集』「さきおくれたる枝」考――一身阿闍梨宣下をめぐって――
一 はじめに
二 第一系統一二番歌
三 守覚の兄弟たち
四 異母弟と一身阿闍梨宣下
五 述懐と受法
六 第一系統における定恵関係歌採録の背景
七 おわりに
第三章 仁和寺と五十首歌――『御室五十首』と『道助法親王家五十首』を中心に――
一 はじめに
二 五十首歌催行期の守覚と道助
三 出詠者の検討
1『御室五十首』
2『道助法親王家五十首』
四 おわりに
第四章 守覚法親王と和歌――和歌関係事績の横断的考察――
一 はじめに
二 治承年間以前の活動
三 承安年間の藤原敦経・敦周の『性霊集』講説
四 『玉葉』安元三年正月九日・一九日条
五 建久期の動向
六 第一系統の位置付け
七 『御室五十首』の位置付け
八 第二系統の位置付け
九 守覚と恋歌
一〇 おわりに
第二編 出詠歌人の和歌世界
第一章 『貧道集』の雑部配列――守覚法親王に対する意識――
一 はじめに
二 雑部の構造
三 九〇八〜九四六番歌の展開
四 九四七番歌の位置付け
五 [眺望][餞別]の解釈
六 おわりに
第二章 『御室五十首』の述懐歌――賢清・顕昭・禅性を中心に――
一 はじめに
二 仁和寺僧の経歴と和歌事績
三 仁和寺僧の述懐
四 僧の昇進
五 『御室五十首』の述懐歌の和歌史的位置
六 おわりに
第三章 藤原定家自筆『御室五十首』春部草稿ならびに〈守覚法親王巻物〉の紹介と研究
一 はじめに
二 書誌情報
三 既往の研究成果
四 自筆春部草稿の再出現
五 〈守覚法親王巻物〉の正体
六 伝存考続貂
七 紙背評語の作者
八 おわりに
第四章 藤原定家『御室五十首』草稿転写本の研究――転写本の関係と賀茂季鷹の書写活動――
一 はじめに
二 京歴本の特徴
三 転写本の関係
四 奥書に見る人的交流
五 季鷹の仮名遣い定義
六 京歴本の書写方針
七 おわりに
終 章
参考文献・論文一覧/初出一覧/あとがき
索 引 (人名/書名/寺社・堂舎/地名/重要概念/和歌・連歌・漢詩)
内容説明
【序章より】(抜粋)
筆者が本書で目指したことは次の二点である。
一、寺院制度や歴史学の視座から院政期仁和寺の和歌・歌書・和歌行事を分析し、これらの生成背景と催行意義を解明すること。
一、和歌・歌書・和歌行事を分析する過程において、また分析によって得られた結論から、院政期仁和寺史を再現すること。
筆者は寺院文化の諸相の解明を企図しており、その一歩として、本書は文化圏として認識されている仁和寺に注目する。そして、仁和寺の和歌活動が爛熟期を迎えた院政期を中心に、和歌・歌書の生成背景や和歌活動の意義を解明し、あわせて仁和寺史を再現することを目指す。
仁和寺は、宗教・政治また文化面において重要な活動を果たしたが、個々の僧の経歴や仁和寺そのものの活動すら未詳・未評価の部分が多い。一方、仁和寺で作られた和歌・歌書には、何らかの形で仁和寺の歴史や仁和寺僧の生活が反映されている。裏を返せば、和歌作品を分析することにより、僧の生活や仁和寺の歴史の一端が復元可能となるということである。本書は和歌や歌書また断簡や歌会歌合などを取り上げ仁和寺史の部分的な復元を行うが、述懐歌に重きを置いて分析を進めていく。これは比較的実体験が込められやすい詠歌形式であり、仁和寺を立体的に捉える視座となりうる詠歌だからである。仁和寺が院政期の宗教界において高い位置を占めていることは疑いないが、仁和寺が権威を保つには多くの努力があり、苦難があった。述懐歌はそうした側面を反映しているのである。もちろん、和歌は文学であるため、虚実が織り交ぜられている。その虚構を寺院制度や歴史学的視座によって明らめ、「事実」を見出だすことにより、歴史学・宗教学面に重要な情報を提供することを目指す。