目次
はしがき
第一部 天下国家からグローバル世界へ
序 論
第一章 想像的世界から現実的世界へ
1 東西勢力の交代と大航海
2 地図にみる日本人の世界
3 ロシアの南下と海国日本の自覚
第二章 中国における世界像の変遷
1 マテオ・リッチと万国全図
2 『三才図会』の世界像
3 清朝中国から見たロシア
4 拡大された世界と海
第二部 徳川時代の知識人と「世界」
第三章 洋学系知識人の登場
1 世界的視野の原点
新井白石
前野良沢
杉田玄白
2 憧れと脅威の世界
司馬江漢と本多利明
大槻玄沢
山村才助
渡辺崋山
箕作阮甫
第四章 非洋学系知識人の場合
1 山片蟠桃の世界認識
2 平田篤胤の「日本」発見
第三部 日中知識人に見る世界像の形成
第五章 『海国図志』の衝撃と幕末日本
1 魏源の新しい世界像
魏源とその「西洋」体験
『海国図誌』における対外認識
世界の拡大と危機意識
『海国図誌』から『瀛環志略』へ
2 幕末の知識人と『海国図志』
第六章 「世界のなかの日本」へ
1 佐久間象山の構想
危機意識と価値の世界化
「東洋道徳と西洋芸術」の提唱
2 佐久間象山と魏源の比較
第七章 グローバル世界への出発
1 福沢諭吉の文化ショック
2 容閎とその『西学東漸』
3 洋上の対話
むすびにかえて
第四部 グローバル化と伝統の間に
第八章 天下国家観の起源と儒家の理想
1 天命の形成
神話や伝説の中の儒教理想
天と人の関係の変化
孔子の教え
孔子学の表層と深層
教育の目標
君子の役割
超越的価値の源泉
2 儒者から祭天権を奪う秦の始皇帝
天の威力を取り戻す董仲舒と儒学の転向
天人関係から見た孔子一門と董仲舒の異同
3 天地、万世、人類のための理学体系の構築
天理の発露は修養次第
『四書』の構成と朱子学の本質
朱子学と科挙制度
心学の登場と新儒教の変遷
儒教と儒学の再分離
第九章 グローバル化の思想装置としての伝統
1 救亡という名の伝統回帰
2 近代の政治と儒教文化
3 近現代の経済儒教文化
第十章 日本のグローバル化と伝統文化
1 福沢諭吉の文明進歩観と儒教
2 福沢諭吉の家族観と儒教
第十一章 現代新儒家の理想と運命
1 現代新儒家たちの東西文化論
2 儒教文明からのメッセージ
第五部 グローバル化の国家構想と文化自覚
第十二章 詩史交響の東洋狂想曲――清末文人黄遵憲の「日本」想像
1 日本との遭遇
2 虚像から実像へ
3 明治の「復古」と「惟新」
4 「アジアの振興」への期待
5 日本発見の階層構造
第十三章 夏目漱石の東洋と西洋
第十四章 梁漱溟の「東方化」構想と文化自覚
1 問題提起
2 東西文化相対性への発見
3 文化の個性への自覚
4 「新組織」構想と文化の精神
5「西方化」と「東方化」の意味構造
第十五章 清末民国知識人に見る「文化革命像」のスペクトル
1 研究の背景と問題所在
2 辛亥革命後の革命家に見る「文化革命像」の表層構造
3 清末民国知識人に見るもう一つの「文化革命像」の深層構造
4 毛沢東の「文化革命像」の形成と清末湖南の教育環境
第十六章 現代中国における伝統再帰に関する一思考
はじめに
1 ウェーバーとマルクス
新教倫理と儒教倫理の違う働き
儒教と中国社会の特別な関係性
2 曾国藩と毛沢東への目差し
「曾国藩の家書」
聖なる「毛沢東像」の裏にあるもの
3 改革開放と伝統回帰
「文革」の終焉と脱イデオロギーの時代
黒猫・白猫論
実践・真理論
「前に向かう」から「金に向かう」へ
文化開眼と民主化運動
終わりに代えて
参考文献一覧
初出一覧
あとがき
索 引
内容説明
【はしがきより】(抜粋)
本書は世界の一体化はいかにして進行したか、グローバル化、すなわち世界の一体化はどのようにして起こり、世界史にどのような影響を及ぼしたか、国境を超えるヒト・ モノ・カネ・情報・文化の緊密な移動、その移動を通じた各種のネットワークの形成を観察し、記述するグローバル世界史の研究(秋田茂『グローバル化の世界史』ミネルヴァ書房 2019 年)の目標を共有しつつ、中国と日本のグローバル化の実際を浮き彫りにし、世界における中国や日本の存在意義を新しい視点や角度から深く問いかけるものである。また本書の日本での出版は、他山の石」との役割も期待できる。筆者の中国人としての目から観察した日本の記述から、日中両国の相互理解や日本人の自国認識や中国認識に対しても、少なからざるヒントと刺激を与えるだろうと信じる。
第一部―第三部は日本と中国における世界像の形成を、アジアとの連動において捉え、近代以前の日本における「世界意識」の芽生えとその成長ぶりを、蘭学者と清末知識人を中心とする知識人の思想や行動を通じて分析する。
第四部では伝統とグローバル化との関係を考察する。儒教は古代中国で非常に厳密な政教合一の形態を持っている。ここでは政権は即ち教権であり、皇帝の教権的身分は天の子であり、皇帝の発する行政命令の冒頭では「奉天承運、皇帝詔曰」となっている。しかし政権と教権が長期間において癒着する結果、辛亥革命によって皇権が転覆されると、儒教も皇権の崩壊に伴い急速に政治の表舞台から消えていく。しかし儒教というDNAは本当に中国社会という膨大な「体」からその「用」を完全に喪失させてしまっただろうか、第二部はこうした伝統とグローバル化との関係を近代初期の日本との比較を通じて考察する。
第五部では日中両国の知的思想家たちが新たな国家構想を模索する中、如何にして文化自覚の境地に至ったかを分析する。
National Imagination and Cultural Awareness: Historical Study of Japan-China Globalization