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「心身/身心」と環境の哲学

―東アジアの伝統思想を媒介に考える―

「心身/身心」と環境の哲学

東アジアの伝統思想を普遍化する試みはどのような現代的視点を示すのか?

著者 伊東 貴之
ジャンル 中国思想・哲学
出版年月日 2016/03/15
ISBN 9784762965685
判型・ページ数 A5・818ページ
定価 22,000円(本体20,000円+税)
在庫 在庫あり
 

内容説明

【主要目次】

  はじめに――日文研の共同研究会と本論集の趣旨――……………………伊東 貴之

第一部:東アジアの伝統的な諸概念とその再検討の試み

  朱熹の「敬」――儒教的修養法の試み――…………………………………土田健次郎
  心学としての朱子学――朱熹の「理」批判と経学――………………………垣内 景子
  袁仁『砭蔡編』について――明代における蔡沈『書集伝』に対する批判の特例―― 
  ……………………………………………………………………………………陳  健成
  陽明後学の講学活動と日常――鄒守益の詩文より見たる―― ……………永冨 青地
  仇兆鰲と内丹修錬――儒教と道教のはざまで――…………………………横手  裕
  阮元「論語論仁論」の評価をめぐって…………………………………………林  文孝
  朝鮮思想再考……………………………………………………………………権  純哲
  〈悪〉とは何か――本居宣長『古事記伝』の場合――…………………………田尻祐一郎
  江戸後期の文献研究と原典批判………………………………………………竹村 英二
  清代経世思想の潮流――経世学と功利学――………………………………大谷 敏夫

第二部:心と身体、環境の哲学――東アジアから考える――

  仏教における身体性の問題――キリスト教との対比から――………………末木文美士
  「易」の環境哲学…………………………………………………………………桑子 敏雄
  拡張した自己の境界と倫理………………………………………………………河野 哲也
  中国医学における心身関係………………………………………………………長谷部英一
  跪拝の誕生とその変遷……………………………………………………………西澤 治彦
  唐初期唯識思想の人間本質観…………………………………………………橘川 智昭
  「心」と「身体」、「人間の本性」に関する試論
    ――新儒教における哲学的概念の再検討を通じて――………………………伊東 貴之
  全真教における志・宿根・聖賢の提挈
    ――内丹道における身体という場をめぐって――………………………………松下 道信
  江戸期における物心二元論の流入と蘭学者の心身観……………フレデリック・クレインス
  近世日本における武道文化とその身心修行的性格
    ――中国・朝鮮の武術との比較を踏まえて――…………………………………魚住 孝至
  神津仙三郎『音楽利害』の音楽療法思想にみる東洋的身体観…………………光平 有希
  孔子の祭りに牛・山羊・豚は不要か?
    ――中華文化復興運動期の台湾における「礼楽改革」事業の一斑――………水口 拓寿
  日本人の空気観――電気、空気、雰囲気という漢語をめぐって――…………新井菜穂子
  自然環境と心=身問題のために――概念操作研究の勧め――……………鈴木 貞美
  日本仏教における身体と精神、キリシタン時代の霊魂論の問題をめぐって
   ………………………………………………………………………フレデリック・ジラール

第三部:思想・宗教・文化がつなぐ/むすぶ東アジア――文化交流と文化交渉の諸相――

  東アジアの南北半月孤…………………………………………………………高橋 博巳
  正気歌の思想――文天祥と藤田東湖――……………………………………小島  毅
  高麗と北宋の仏教を介した交渉について――入宋僧を中心に――…………手島 崇裕
  太鼓腹の弥勒は仏教なのか――布袋和尚伝記考――………………………陳  継東
  新井白石の漢学と西学――朱子学的「合理主義」と真理概念の普遍性において―― 
  ……………………………………………………………………………………李   梁
  「教化」から「教育」と「宗教」へ――近世・近代日本における「教」の歴史―― 
  ……………………………………………………………………………………鍾  以江
  梁啓超の「幕末の陽明学」観と明治陽明学……………………………………李   亜
  「宗教」としての近代日本の陽明学……………………………………………山村  奨
  民国知識人の文化自覚と伝統――梁漱溟の「東方化」の再解釈を兼ねて―― 
  ……………………………………………………………………………………銭  国紅
  日中道義問答――日米開戦後、「道義的生命力」を巡る占領地中国知識人の議論――
  ……………………………………………………………………………………関  智英
  二十世紀初頭、安岡正篤の日本主義のおける直接的行動主義
  ――安岡正篤のベネデット・クローチェ訪問計画に留意して――……………竹村 民郎
  吉田松陰の革命思想とその天下観 ……………………………………………楊  際開

  あとがき/附録:読者のための参考文献一覧/執筆者一覧

【はじめに――日文研の共同研究会と本論集の趣旨】より(抜粋)

 本書は、国際日本文化研究センター(略称・日文研)において、二〇一一(平成二十三)年度から、四年間に亘って開催された、共同研究会「「心身/身心」と「環境」の哲学―東アジアの伝統的概念の再検討とその普遍化の試み―」(通称・伊東班)の成果報告を兼ねた論文集である。

 日本でも馴染みの深い、「天」「道」「理」「気」「性」「心」「情」「欲」「礼」といった、儒教思想上の主要概念は、元来、漢語のごく日常的な語彙でもあったものが、中国思想史の展開において、道家系の諸思想や道教・仏教などとの接触や競合のなかで、次第に洗練の度を加え、宋代に至り、とりわけ朱子学の体系の確立とともに、ほぼ最終的な定式化を見た。

 本書では、まずさまざまな文脈で引証され、やや手垢の付いた感も否めない、こうした諸概念について、比較思想的な検討を試みながら、思想や時代、地域などによる差異や異同を明確化することを目指している。

 また、本書では、西洋哲学や日本思想、インド哲学・仏教学、イスラームなどの専門家の知見をも活用しながら、近代的な思惟様式の再検証とともに、安易な比較研究を廃しつつ、現代において、東アジアの伝統思想を普遍化する方途を探ることを、最終的な目標としている。

 本書は全体で三部構成となっている。第一部の「東アジアの伝統的な諸概念とその再検討の試み」においては、主として、より専門的な意味で、東アジアの伝統的な諸概念について、個別的な考察や検証を重ねた論攷を提示した上で、続く第二部「心と身体、環境の哲学――東アジアから考える――」では、主題的に見て、より「身体」や「環境」の問題に特化した論攷をラインナップすることで、相対的に普遍的な問題提起も可能となるよう、配慮したつもりである。更に、第三部「思想・宗教・文化がつなぐ/むすぶ東アジア――文化交流と文化交渉の諸相――」は、それぞれの報告者の興味や関心に従った結果、ある意味では、やや意想外の展開や産物として、東アジアの前近代から近代に跨る、文化交流や文化交渉に関する論攷が並ぶこととなった。しかるに、当初の趣旨や目的に加えて、同時代的にも、東アジアの諸国・地域間でのより深いレヴェルでの交流、共生や和解が目指される時節柄からも、時宜に適った仕儀かと観念される。

 また、全体を通じて、東アジアの伝統思想の再検証に加えて、それが有する現代的な意義や価値の探求、延いては、「心」や「身体」「環境」などをめぐる、より普遍的な意味での哲学的・思想的な考究などに関しても、一定の成果を得たものと自負している。

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