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日本における〈呉越説話〉の展開

日本における〈呉越説話〉の展開

「雪辱」「臥薪嘗胆」「呉越同舟」で知られる〈呉越説話〉の日本での受容の諸相を明らかにする!

著者 程 国興
ジャンル 日本古典(文学)
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日本古典(文学) > 近世文学 > 小説
出版年月日 2022/05/30
ISBN 9784762936753
判型・ページ数 A5・408ページ
定価 11,000円(本体10,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

緒 言

第一章 日本の古典文学における呉越合戦関係の章句

   呉国と越国が対峙する構図
   「会稽」「越王勾践」「西施」「姑蘇台」の変容と展開
   范蠡像(陶朱公像)の変容と展開
   伍子胥について―日中比較文学上の問題―
   勾践石淋譚の展開
   〈補説〉スペンサー本前半部のみに関わる中国古代史部分の引用例

第二章 〈呉越説話〉の形成――『太平記』への道のり――
     
   構造の簡略化―『史記』『呉越春秋』との比較から―
   汚物嘗舐譚にみる『太平記』系〈石淋ばなし〉の特異性
   〈三不可〉にみる『太平記』系范蠡像の特異性
   范蠡の〈魚書〉の存否にみる変容
   呉王夫差像の二重性から―〈呉越説話〉の内部亀裂―
   〈勾践帰国〉の理由の二重化、〈西施献呈〉の理由の三重化
   『太平記』〈呉越説話〉における西施の中心性

第三章 『三国伝記』〈呉越戦事〉の位相
        ――『太平記』との比較研究――
  
   『三国伝記』〈呉越戦事〉と『太平記』巻四〈呉越軍事〉の比較
   『三国伝記』〈呉越戦事〉の趣向―『太平記』との比較―

第四章 仮名本『曾我物語』の〈呉越説話〉論――『太平記』との比較研究――

   仮名本『曾我物語』と『太平記』との関係
   『太平記』から照射する仮名本『曾我物語』の性格
   仮名本『曾我物語』の人物像改変の方法
   両作品の主題の相違

第五章 『平家物語』後出本における〈呉越説話〉論
    
   『源平盛衰記』の〈呉越説話〉の位相
   長門本『平家物語』の〈呉越説話〉の特異性
   中日貿易交流における「呉越」

第六章 『太平記秘伝理尽鈔』の「呉越戦い」評論

   呉越君臣論
   会稽の戦い

第七章 御伽草子『呉越物語』論――『太平記』との比較研究――

   A・B両本比較の前提
   B(国学院本)のほうが『太平記』に近い例―A(光慶本)の性格―
   A(光慶本)のほうが『太平記』に近い例―B(国学院本)の性格―
   御伽草子『呉越物語』と『太平記』との関係

第八章 スペンサー本『呉越物語』の位相

   前半部1〜6と中国の典籍
   前半部7〜16と『史記』『呉越春秋』
   後半部と『史記』
   『史記』に依拠したための改変
   枠組み部分の日本的なもの
   補論

第九章 〈范蠡後日譚〉についての考察

   范蠡後日譚の概要と受容
   『新可笑記』「炭焼きも火宅の合点」と『史記』との比較

第一〇章 『通俗呉越軍談』の位相
   
   『通俗呉越軍談』の概要
   『通俗呉越軍談』の方法
   『通俗呉越軍談』の位相

第一一章 浄瑠璃『呉越軍談』の構造

   先行作品との共通点・相違点
   舞台芸能的性格の表出
   場面主義の傾向
   物語展開の工夫―結果論的視座との闘い―
   人物形象の特徴
   テーマ性の希薄化
   東施像の源流

第一二章 〈呉越説話〉のゆくえ――「臥薪嘗胆」「呉越同舟」の熟語化――
 
   臥薪嘗胆
   呉越同舟

結 語

付録1 『太平記』巻四「呉越軍事」の対校
付録2 『太平記』巻四「呉越軍事」の中国語訳
付録3 スペンサー本『呉越物語』釈文
初出一覧
索 引
Ⅰ人名
Ⅱ地名
Ⅲ書名
Ⅳ成語
Ⅴ研究者名
Ⅵその他

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内容説明

【緒言より】(抜粋)

 中日両国で広く知られている「雪恥」の物語の一つは呉越合戦の話、つまり〈呉越説話〉である。今の新聞やニュースでよく見かける熟語「臥薪嘗胆」「呉越同舟」などはこの話に由来するものである。本書で考察する日本の〈呉越説話〉の大要は、会稽山の戦い(夫椒の戦い)で敗北した越王勾践が、幾多の苦難を超えて、最終的に呉王夫差に勝利するというものである。これに多少の肉付けをするならば、越王勾践には范蠡・太夫種という家臣がいて勾践に諫言し、もう一方の呉王夫差にも伍子胥・太宰嚭という家臣がいて諫言したり敵に内通したりするという人間模様が繰り広げられている。その中で、越王勾践の愛妾である西施が呉王夫差に一時的に奪われるという一幕もある。このような〈呉越説話〉の日本的な展開の様相および特質を明らかにするのが、本書の目的である。日本の古典文学を古代から近世まで通覧してみたとき、〈呉越説話〉は同程度ずつ徐々に変容しているわけではなさそうである。当然、展開には、いくつかの節目があったはずだ。大きく変容する時期と、そうでない時期があるということだ。(中略)そのような観点から、日本の〈呉越説話〉の展開を概観してみた場合、大きな節目となるのは、間違いなく『太平記』巻四「備後三郎高徳事 付呉越軍事」である。この話は、日本において〈呉越説話〉がまとまった最初の形であるとされている。日本の〈呉越説話〉の展開において『太平記』所収話をこのように位置づけるとすると、『太平記』以前はどうであったのか、あるいは『太平記』以降はどのように変容していったのか、という問題の立て方をすることになる。このような考え方から、第一章では『太平記』以前の呉越戦争関係の章句も含めて、全体的な展開の様相を通覧する。そして、第二章以降で、『太平記』の〈呉越説話〉がどのようにして成立したのか、『太平記』と仮名本『曾我物語』の〈呉越説話〉の関係はどのようなものか、『太平記』と『三国伝記』所収〈呉越説話〉の関係はどうであるか。近世に入って成立した御伽草子系の「呉越」絵巻物の位相はどうであるか。また、読本『通俗呉越軍談』と中国明清小説の関係はどうか、浄瑠璃『呉越軍談』はどのような性格をもつものかなど、細部について述べることとする。

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