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宋代史研究会報告集(11)宋代史料への回帰と展開

宋代史研究会報告集(11)宋代史料への回帰と展開

◎宋代史研究会報告集 第十一集 刊行なる!

著者 宋代史研究会
ジャンル 東洋史(アジア)
東洋史(アジア) > 宋元
出版年月日 2019/07/26
ISBN 9784762966323
判型・ページ数 A5・462ページ
定価 13,200円(本体12,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに (梅村尚樹・小林 晃・小林隆道・藤本猛)
 

Ⅰ 史料と認識


文集史料の分布から見る宋元時代の地域史と断代史 (梅村尚樹)

中国農書と知識人 (市村導人)


Ⅱ 宋代史料のひろがり


「異形の竹」絵画化の系譜――文同を中心に―― (植松瑞希)

元雑劇作品に描かれた宋代社会のイメージ (林 雅清)

明代内府で受容された宋の武人の絵物語
          ――とくに岳飛の物語から―― (松浦智子)


Ⅲ 政治史の視野と多様な史料


徽宗朝の神霄玉清万寿宮 (藤本 猛)

王倫神道碑の建立とその背景 (榎並岳史)

元代浙西の財政的地位と水利政策の展開 (小林 晃)


Ⅳ 文書史料と制度・運用


宋代における箚子の登場とその展開 (伊藤一馬)

南宋末期理宗朝における執政の兼職とその序列
      ――『武義南宋徐謂礼文書』所収の告身を手掛かりに―― (清水浩一郎)

南宋淳祐九年における茅山加封文書の発出過程
      ――『道蔵』所収『三茅真君加封事典』を分析対象として―― (小林隆道)


宋代史研究会の歩み
編集後記
編者・執筆者紹介
外国語要旨

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内容説明

【本書より】(抜粋)

本書は「宋代史研究会研究報告」の第十一集に当たる。
 我々編集委員は、二〇一七年八月の宋代史研究会夏合宿で「史料」をテーマとしたシンポジウムを行い、また同じ年の九月に大阪市立大学と復旦大学の共同で開催された第二届宋遼金西夏研討会でも「史料」がテーマとして扱われた。これらの機会に報告された内容に、二〇一八年の宋代史研究会夏合宿などで報告された数篇の論考を加え、あわせて十一篇の寄稿を得ることによって、本報告集は編纂された。
 Ⅰ「史料と認識」に収める二篇は、史料と方法論の関係や、そこから描き出される歴史像の偏りを問題としている。『全宋文』・『全元文』を素材として、文集史料の偏りを史料論・方法論から論じ、宋元代社会史研究の動向も含めて考察した梅村論文は、ある意味メタ研究とも言いうるものであろう。また、農業史の分野で用いられる「農書」概念の変遷とその普及状況を考察した市村論文は、農書をイデオロギー的に偏った特殊な史料と位置づけて、その利用に注意を喚起する。この二篇は、我々が日常的に利用している個々の史料を史料全体の中に位置づけたとき、いかなる問題が見えてくるのかを改めて問い直している。
 Ⅱ「宋代史料のひろがり」では、それぞれ美術史や文学、版本学といった専門領域を持ち、狭義の文献史学には収まらない論考を集めた。植松論文は、宋代に重要な転機を迎えたと考えられる墨竹画を題材とし、宋代の作品であることが確定した絵画資料を欠く状況の中、後世の作品と宋代の文献史料とからその発展過程を復元している。林論文は、宋代を舞台として描かれた作品が多い元雑劇について、宋代社会史史料として用いる際の意義と問題について考えたものであり、これは文学研究において歴史学の成果をどのように生かすかという問題を、逆照射したものとも言えよう。松浦論文は、同じく宋代に題材をとる通俗文芸作品のうち、とくに岳飛の物語が、民間だけでなく明代の宮廷にまで広く受容されていたことを、版本学の手法を通じて精緻に実証している。
 Ⅲ「政治史の視野と多様な史料」では、様々な史料をいかに利用して政治史を構築するか、それに挑んだ三つの論考を収めた。藤本論文は、道教に関わる徽宗の御書碑を題材に、当時の政治状況に照らし合わせてその位置づけを再考している。榎並論文は、神道碑という、墓誌や行状と類似しながらも、それらとは異なる意味合いを持つ史料をもとに、南宋期の政治状況を描き出した。小林晃論文は、南宋末から元に生きた地方官の手になり、局所的な水利事業について書かれた史料を主に利用し、南宋から引き続く政治経済構造の中に位置づけることによって、元代の基本的な政策に迫る。これは社会経済史で語られる問題を政治史の視点から回収しなおしたものと言える。
 Ⅳ「文書史料と制度・運用」は、文書史料と呼ばれる、おおむね当時の姿をとどめる行政文書史料群を用いた論考を収めた。文書研究は、伊藤論文が「宋代文書研究は宋代史研究において最も活況を呈している分野の一つ」と述べるように、現在注目を集めている最前線の研究分野である。その特徴は、多くの場合史料の編纂によって失われてしまう書式や形式を分析することで、字句内容だけからではわからない情報を読み取り、当時の行政制度やその実態を明らかにしようとする点にある。日本中世史や近世史ではすでに一般的な研究手法となって久しいが、中国史の分野では編纂史料が豊富であったがゆえに、かえって立ち遅れていた分野である。伊藤論文では、宋代文書研究の現状や問題などについて基本的な整理がなされており、その上で「箚」と呼ばれる文書群の発展過程を追い、その本質部分を考察している。とかく不明瞭な点の多い当該分野の入門としても有用な論考となっている。清水論文は、官僚身分を証明する告身文書の書式を手掛かりに、近年出土した新史料である『徐謂礼文書』を用い、南宋期の官僚制、および当時の政治体制にまでその考察が及んでいる。また小林隆道論文は、『道蔵』所収の複数の行政文書から、文書運用の実態という、文書研究における重要課題を突き付ける。一口に「文書史料」と言っても、これら三篇はそれぞれが個々の問題関心に合わせて、多様な情報源から議論を組み立てていることがわかるであろう。
 第十一集となる本書も過去の報告集と同様、現時点における最新の宋代史研究の動向を反映させることを目指した。多数の論考から一つの事象を追うようなテーマ設定ではないものの、研究者個人が抱える課題を史料と方法論から浮かび上がらせる試みは、結果として各分野における最前線の営みを表現することに成功しているのではなかろうか。実際には収載できなかった重要分野も少なからずあるため、あらゆる領域に言及できているわけではないが、今後の宋代史を担うべき比較的若い世代が、どのような史料と方法で研究を行ってきたのか、あるいは今後行おうとしているのか。実例をもって示すことができたものと考える。



Returning to the Historical Materials of the Song Dynasty and New Research Development

(Research Report of the Song History Research Group: No,11)

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