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中国現代文学の言語的展開と魯迅

中国現代文学の言語的展開と魯迅

中国近現代文学と魯迅について、学術研究の本質――「鋭敏」と「仮説性」により考察する

著者 阿部 幹雄
出版年月日 2014/12/28
ISBN 9784762965296
判型・ページ数 A5・314ページ
定価 9,900円(本体9,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

序  (坂井洋史)
Ⅰ 論 攷
「革命文学」における文学言語観――李初梨「怎様地建設革命文学」を中心に
成仿吾における「文学観」の変遷
魯迅の言語観と「抗い」をめぐって
「阿Q正伝」から考える魯迅――極私的魯迅観 
アジアをいかにして考えるか――戦後日本思想界のアジア
Ⅱ 雑 攷
三・一一における魯迅体験          解題『人間毛沢東』『毛沢東思想の原点』
中国革命は終わったのか――丸川哲史著『魯迅と毛沢東』
「中国的文脈」を理解することの困難と可能性――我々の中国理解をかえることは可能か?
『津村喬精選評論集』書評          現代中国認識のより一層の深化のために(座談会)
Ⅲ 翻 訳
張新穎 個人の苦境から歴史伝統における「有情」を体得する――沈従文の土地改革期の家書を読む
韓毓海 長き革命 毛沢東の社会主義     孫歌・陳光興 文化「間」実践の可能性
孫 歌 東京停電
 阿部幹雄略歴/阿部幹雄著訳一覧 あとがき(鈴木将久)・索 引

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内容説明

【本書「序」より】(抜粋)

著者が身過ぎ世過ぎの術も含め、自らの人生をどのようなものと思い描いていたかは知らず、研究者として立つ意思を強く示した時期のあったことは、私も鮮やかに憶えている。その時期に集中して書かれたのが、本書冒頭三篇の論文である。著者は後にこの三篇を結合し、繋ぎに若干の工夫を施した形の学位論文「中国近代文学における「文学」をめぐる言説の系譜――五四新文学、プロレタリア文学、そして魯迅について」を一橋大学大学院言語社会研究科に提出し、二〇一〇年三月二二日に博士(学術)の学位を取得した。

 著者が論じた問題の幾つかは、私も久しく関心を寄せる所であるが、例えば初期郭沫若の標榜した、主観の表象として写実や再現を超えた「表現」について、その限界が後に李初梨のような理論家に乗りこえられていく過程までは、正直視線が及んでいなかった。また成仿吾について論ずる第二の論文の中で著者は、初期の成もその一翼を担った草創期五四新文学が、抽象的な概念によって世界を叙述する方法を開拓し、未曾有の言語空間を創出したとするが、この指摘は誠に鋭い。これらを文学史的に論ずるとなれば、鋭敏な発見や新鮮な切り口から議論を更に深めるために、周到な目配りや資料の掌握はいまだ十分ではないが、それだけに勘所を摑まえ得た著者の鋭敏さは、却って際立った。所謂「周到」の有効性など元々が期限付きであるし、資料は不断に「発掘」されていくものであることを考えれば、学術研究の本質的な価値は、著者の示したような鋭敏と仮説性の如何によってこそ量られるべきと、私は考える者である。著者はこの三篇の論文で価値ある指摘を随処で示しているので、読者にあっては、表層のなくもがなの虚飾を見透かして、そのような鋭敏と仮説性に触れられたい。

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