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中国日常食史の研究

中国日常食史の研究

日常食という消費の側面から、中国食物・農業史研究に新たな地平を拓く画期的意欲作

著者 中林 広一
ジャンル 東洋史(アジア)
東洋史(アジア) > 明清
出版年月日 2012/10/01
ISBN 9784762929892
判型・ページ数 A5・298ページ
定価 5,500円(本体5,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

序章
1.食に関わる従来の研究 2.研究の諸前提 3.本書の課題と構成
第1章 「穀」考―中国史における「穀」分類をめぐって
1.問題の所在 2.史料に見える「穀」 3.アサ利用の歴史と「穀」 4.「穀」概念の変遷
第2章 宋代農業史再考―南宋期の華中地域における畑作を中心として
1.華中地域における開発志向と畑作 2.農業技術普及の実態 3.農村における穀物消費
第3章 都市の食、農村の食―清末民国期、湖北省における日常食の階層性
1.漢口における日常食 2.農村部における日常食 3.農民のコメ利用とその背景
第4章 移住・開発と日常食―清~民国期、湖南省永順府を事例として
1.清代永順府概観 2.営農状況 3.永順府における日常食 4.畑作作物利用の背景
第5章 中国におけるソバについて
1.ソバの植物的特徴と名称 2.ソバの起源と普及 3.ソバの利用法 4.ソバの分布 
5.ソバ栽培の実際とその役割
第6章 中国におけるヤマイモについて
1.ヤマイモの品種 2.六朝以前のヤマイモ 3.唐以降のヤマイモ
第7章 中国における食芋習俗とその展開
1.食芋習俗の分布 2.食芋習俗の実態 3.食芋習俗の展開とその背景 4.食芋習俗の歴史的展開
その後の海南島―おわりにかえて
終章
後記・索引

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内容説明

本書は「漢族の食卓には日常的にどのような食事が供されたのか」という疑問に答えようと試みたものである。より具体的に検討の対象を明示すれば、地域は華中・華南地域を、時代は清から中華民国の時期を、主体は農民を始めとする直接労働者を中心として取り扱っている。こうした庶民の日常的な食事は研究テーマとして極めて卑俗で取るに足らないものと見なす向きもあろうが、本書における検討作業は食物史研究のみならず、農業史研究においても一定の意義を有するものである。前者について言えば、宴会や節日といった非日常的なシチュエーションにおける食事や富裕層による贅を尽くした食事のみに関心が集まった従来の研究に対し、これまで注目されることの少なかった庶民の日常食の実態を提示した点に意義がある。これは単に研究の空白を埋める作業というだけにとどまらず、社会の大勢を占める食物消費の具体像を明らかにすることで前近代中国における経済のあり方を考えるための手がかりを提供するものでもある。また、後者について言うと、従来の農業史研究がコメの生産に重きを置きがちであり、それ以外の作物が果たした役割については等閑視されてきたが、それらの作物の重要性を確認した点に意義が求められる。本書では華中・華南社会において利用された作物としてムギを始めとする各種穀物に加えて、ソバやサトイモ・ヤマイモといったイモ類など従来顧みられなかった作物を採り上げているが、日常食として扱われるこれらの作物に目を向けることで、農業生産の場でもこれらの作物が一定の存在感を有していたことを明らかにした。そして、コメとこれらの作物はフィルムのポジとネガに例えられる関係でもあり、本書はソバやサトイモの姿に焦点を合わせることで、これまでの研究では見えてこなかったコメの性格を明らかにしている。こうした本書の内容は読者に中国農業史の新たな一面を提示することになろう。

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