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中国近世通俗文学研究

中国近世通俗文学研究

『水滸伝』を通して、通俗小説の特徴と元雑劇、能楽・狂言との関係を明らかにする。

著者 林 雅清
ジャンル 中国古典(文学)
中国古典(文学) > 明清
出版年月日 2011/12/20
ISBN 9784762929717
判型・ページ数 A5・312ページ
定価 7,700円(本体7,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

【内容目次】
序(井上泰山)
序 論 『水滸伝』の形成と「水滸」物語

第一部 通俗小説研究
 第一章 『水滸伝』における「好漢」の概念
  抽象的「好漢」
   抽象的概念を表す「好漢」/呼びかけの「好漢」/
   自分のことを表す「好漢」/「好漢」と「英雄」
  具体的「好漢」
   具体的人物を示す「好漢」/梁山泊一〇八人の「好漢」/
   一〇八人以外の「好漢」/女頭領と「好漢」
 第二章 『水滸伝』百二十回本挿入部分と馮夢龍の関係――量詞「籌」を端緒として――
   『水滸伝』における「好漢」の量詞/量詞「籌」/
   『水滸伝』と「三言」の言語/『水滸伝』と馮夢龍
 第三章 魯智深像の再検討
  魯智深像に関する従来の研究
   日本における魯智深研究/中国における魯智深研究/魯智深像の来歴
   『水滸伝』以外における魯智深の形象
   『水滸伝』以前における魯智深の形象/
   「水滸劇」における魯智深像/民間伝承に見られる魯智深像
 『水滸伝』に描かれた魯智深像
   『水滸伝』における魯智深の物語一――出家前/
   『水滸伝』における魯智深の物語二――出家後 /
   『水滸伝』における魯智深のその後――「落草」後
  『水滸伝』に描かれた「僧侶」像
   「悪僧」崔道成/「淫僧」裴如海/『水滸伝』におけるその他の僧侶
 第四章 明代通俗小説に描かれた悪僧説話の由来――仏教における「戒律」と「淫」の問題を手掛かりに――
  悪僧説話の具体例
   『水滸伝』に登場する悪僧/公案小説における悪僧説話/「三言二拍」の中の悪僧説話/「淫僧説話」の集大成――『僧尼孽海』
   悪僧説話の由来
  歴史的事実に由来するという説/読者層の興味に由来するという説/その他の説
  「淫僧」の実在と仏教の「戒律」
   仏教における「戒」と「淫」/仏教における「律」と「淫」/
   「戒律」と「淫」―仏教僧の理想と現実
 第五章 中国近世通俗文学における「勧善懲悪」
  「勧善懲悪」とは
  中国近世通俗文学に見られる「勧善懲悪」
   『水滸伝』における「勧善懲悪」/「三言」における「勧善懲悪」/
   風流文学における「勧善懲悪」/公案小説および元曲における「勧善懲悪」
  日本の近世文学における「勧善懲悪」

第二部 元雑劇研究
 第六章 「黒旋風双献功雑劇」の喜劇性――道化の側面から――
   元雑劇「双献功」の梗概/第一の道化――孫孔目/
   第二の道化――店小二・張千/第三の道化――李逵
 第七章 元雑劇「還牢末」人物形象新釈
   「還牢末」の物語/「還牢末」における「矛盾」/「還牢末」に描かれたテーマ
  「還牢末」の人物形象
   「還牢末」の中の李逵像/「被害者」としての主役――李孔目の形象/
   「大婦」趙氏と「小妻」蕭娥/その他の脇役たち
 「還牢末」における劉唐と史進の存在意義
 第八章 元雑劇と能・狂言・歌舞伎
  日本の伝統演劇と現代の若者
  元雑劇とは   
  元雑劇と能・狂言・歌舞伎
   元雑劇と能の共通点/元雑劇と狂言の共通点/元雑劇と歌舞伎の共通点
  元雑劇と日本伝統演劇の因果関係
 第九章 元雑劇と能楽の影響関係について――日中古典演劇比較論争再考――
  能楽における元雑劇影響説  能楽における元雑劇影響否定説  その他の関連論考
  日中古典演劇からみた東アジアの海域交流と文化の多元的発生論
 附 論 『続修四庫全書総目提要』の価値――『水滸伝』の解題を例に――
  『四庫提要』について/『続修四庫提要』の成立過程/『続修四庫提要』と『続修四庫全書』
  『続修四庫提要』における『水滸伝』の解題/『続修四庫提要』以降の「提要」における『水滸伝』の解題

結 論 中国近世通俗文学と「水滸」物語の諸相

あとがき・初出一覧・英文題目・中文提要・人名索引

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内容説明

【序論『水滸伝』の形成と「水滸」物語 より】(抜粋)

 中国における「近世通俗文学」とは一体どういう文学を指すかというと、「元曲」や「明清小説」という文学ジャンルに代表される、宋代から元、明、清の時代にかけて民間において流行した小説や戯曲などの文学作品の総称のことである。「小説」はいうまでもなく、「元曲」にしても明代に再編された『元曲選』などは、「読み物」としての文学作品である。つまり、識字層でなければそれを享受できない。「民間」にどれほどの識字層があったか、あるいは、「庶民」とは一体どういう人を指すのかという問題については、いまここで明確な回答を出すことはできないが、知識人ないし士大夫階級以外にも、直接的、もしくは間接的に、小説や戯曲(演劇)などを娯楽として享受していた人々が存在すると考え、そのような人々を総称して「庶民」と呼び、「民間」においてそのような人々が、「近世」以降には多数存在したという前提を置くことにする。本書では「通俗文学」の享受者を「読者」、「観衆」、あるいは単に「人々」と表現することにした。中国 文学の世界では、「通俗文学」に近い言葉に、「白話文学」という呼び名もあるが、敢えて「白話文学」とは言わず、「通俗文学」という言葉を用いることにした。また、中国史において、「近世」という歴史区分に「宋代」を含むかという点についても議論の絶えない問題ではあるが、文学の形態は王朝ごとに明確に分けられるわけではない。おおよそ宋から清の時代を指して「中国近世」と呼ぶことにしたい。特に本書では、主に明代における各種小説や元雑劇(元曲)を、「中国近世通俗文学」として取り上げた。いずれにせよ、中国において「通俗文学」が大きく発展し、人々の娯楽の一つとして定着していくのは、「近世」に始まるとして間違いはなかろう。本書は、そういった中国近世における通俗文学の特徴について、「水滸」物語、特に小説『水滸伝』と元雑劇(元曲)における「水滸劇」を中心に、様々な視点から考察を加えたものである。

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