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中国戦時秩序の生成  新刊

――戦争と社会変容 一九三〇~五〇年代

中国戦時秩序の生成

◎20世紀の戦争は中国(世界)に何をもたらしたのか――笹川史学の集大成なる!

著者 笹川 裕史
ジャンル 東洋史(アジア)
東洋史(アジア) > 近現代
出版年月日 2023/11/14
ISBN 9784762967320
判型・ページ数 A5・480ページ
定価 13,200円(本体12,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

解  説
英文目次
中文目次

【主要目次】
序章

第一部 食糧と兵士の戦時徴発――管理社会化への道程
第一章 日中戦争期の戦時徴発と社会変容
       ――戦時秩序生成に関する序論的考察
 第一節 食糧の徴発とその矛盾
       ――粗放な末端行政、組織性の低い社会(その一)
 第二節 兵士の徴発とその矛盾
       ――粗放な末端行政、組織性の低い社会(その二)
 第三節 矛盾克服に向けた諸動向とその特質
第二章 日中戦争期の戦時食糧政策の執行過程と地域社会
  第一節 中央における政策決定とその拘束力の低さ
  第二節 四川省における独自な基準設定とその特質
  第三節 県および末端レベルの矛盾とその対処
第三章 食糧の徴発からみた一九四九年革命の位置
  第一節 人民共和国初期の食糧徴発――国民政府期との比較
  第二節 日中戦争末期国民政府の「大戸献糧」
       ――人民共和国初期の方式への接近(その一)
  第三節 戦後内戦末期国民政府の「余糧」調査
       ――人民共和国初期の方式への接近(その二)
第四章 戦時災害リスクの構造と管理社会化
  第一節 戦時負担と災害リスク
第二節 日常のなかの事故・災害の頻発と矛盾の連鎖
  第三節 社会に対する管理強化

第二部 せめぎあう徴兵と社会――同調圧力の技法と閉塞状況
第五章 日中戦争期の知識青年従軍運動――抗日ナショナリズムの光と影
  第一節 運動の背景と概観          
第二節 運動の限界と問題点
第六章 戦後内戦期の徴兵制導入と都市社会
  第一節 上海市における徴兵制の導入とその衝撃
  第二節 末端職員からみた徴兵の障碍     
第三節 末端行政の逸脱行為と新たな兵源
第七章 人民共和国初期の義務兵役制と都市の青年たち
  第一節 中国における最初の徴兵制――近代日本との比較から
  第二節 中国の一九五〇年代半ばという時代
       ――再度の徴兵制導入の背景と必要性
  第三節 政府側の旧非公開文書の性格と読み方
  第四節 上海の青年たちの反応――浮かび上がる都市の階層構造
第八章 人民共和国初期の義務兵役制と農村社会
  第一節 新華社『内部参考』の世界――「下情上達」の構図
  第二節 義務兵役制導入と農村幹部――せめぎあう権力と社会
  第三節 農村住民の反応――歓迎と忌避の諸相
  第四節 モデル地区の実践――大衆操作と相互監視の技法
第三部 社会のなかの兵役負担者たち――新たな権利主体の戦時戦後経験
第九章 日中戦争期の出征兵士家族援護と社会変容
  第一節 優待制度の概要と四川省       
第二節 「優待穀」支給をめぐる不正と抗議活動
  第三節 小作権の保全をめぐる紛糾と地主制

第一〇章 戦後内戦期の兵役負担者と地域社会
  第一節 復員兵士たちの現実とその位置    
第二節 内戦期出征兵士家族援護の動向
  第三節 事態打開に向けた新たな模索
第一一章 朝鮮戦争期の兵役負担者援護――農村の場合
  第一節 復員安置工作の展開とその特質    
第二節 出征兵士家族援護工作とその諸条件
  第三節 代耕工作とシステム化の試み

第一二章 復員兵士たちの戦後経験――都市の場合
  第一節 復員兵士たちの概要と構成      
第二節 国家によって期待された役割と表象
  第三節 上海における復員工作の展開     
第四節 模範的復員兵士たちの肖像
  第五節 業務検査から浮かび上がる実像と問題点
第四部 戦時の社会動態と政治文化――中国戦時秩序の諸相
 第一三章 日本との比較からみた戦時社会支援事業
       ――総力戦と基層社会
  第一節 総力戦下の基層社会         
第二節 出征兵士家族援護における中国と日本
  第三節 中国の代理耕作と日本の勤労奉仕
 第一四章 農村社会と政治文化――近代化、戦争、革命
  第一節 近代化過程と農村社会        
第二節 戦時動員による混乱と変容
  第三節 革命前夜の動向とその遺産
 第一五章 戦争と「民意」のゆくえ
  第一節 戦後社会における民意機関の「民意」の位置   
第二節 優位性を脅かす諸要因
  第三節 信頼の流出過程――富裕者への敵対的世論

初出一覧
あとがき
参考文献一覧
人名・地名索引
中文目次
英文目次

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内容説明

【序章より】(抜粋)
 本書のタイトルにもなっている「戦時秩序」という概念について簡単に言及しておこう。通常、近代国家において本格的な戦争が勃発すると、戦争遂行に必要な物的人的資源を大量かつ効率よく動員するために、社会経済や国民生活に対する管理・統制の強化が要請される。この要請をうけて、まず国家機構や法制度の再編成が上から断行され、平時の体制から戦時体制への移行が開始される。
 しかし、ここで留意すべき点は、こうして上から構築された戦時体制が国家のねらいどおりに機能するかどうかは、けっして自明ではないということである。本書では、戦時体制に生命を与え、これを下から支える固有の社会秩序を、さしあたり戦時秩序と呼ぶことにする。その戦時秩序の生成は、戦時体制の構築に促され、これとパラレルに同時進行することもあるが、多くの場合、相互に齟齬が生じることもまた珍しくはない。たとえば、本書で具体的に描き出すように、社会が戦時体制を受け付けず、その期待された機能を著しく損なってしまう場合も普通に観察されるのである。
 他方、戦時体制が解除されれば、戦時秩序もまた、それと同時にあたかも何もなかったかのように雲 散霧消するわけではない。その含意についても注意を促しておきたい。長期にわたる戦争や国際緊張の もとで社会に根付いた戦時秩序は、客観情勢が大きく変化しても、人々の日常の行動様式や意識構造に 深く根を下ろして、その後も長く居座り続けることもある。甚だしい場合には、いわば負の遺産として、 戦後における国家や社会がとりえる選択肢の幅を著しく狭め、そこに不穏な歪(ひず)みや新たな惨劇を引き寄せてしまう可能性も皆無ではない。(中略)そして、今日の中国が抱える根深く深刻な諸問題の背後にも、複合的な要因がさまざまに絡んでいるにせよ、苛酷な総力戦にさらされ続けたなかでその身に背負うことになった負の遺産が影を落としていると考えている。この点も、本書に盛り込んだ主要な問題意識にほかならない。



The Birth of Wartime Social Order in China: War and Social Change in 1930-50’s

 

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