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汲古叢書90 清末のキリスト教と国際関係

―太平天国から義和団・露清戦争、国民革命へ―

汲古叢書90 清末のキリスト教と国際関係

ロシア語・英文・中国語文献を駆使して清末中国社会の実態と西洋列強との関係に迫る!

著者 佐藤 公彦
ジャンル 東洋史(アジア) > 明清
シリーズ 汲古叢書
出版年月日 2010/05/18
ISBN 9784762925894
判型・ページ数 A5・568ページ
定価 13,200円(本体12,000円+税)
在庫 在庫あり
 

内容説明

【本書より】

本書は、前著『義和団の起源とその運動―中国民衆ナショナリズムの誕生』(研文出版、一九九九年)を上梓した後、ここ十年ぐらいの間に書いた清末のキリスト教や義和団をめぐる問題についての文章をまとめたものである。

本書の主張の一つは、中国近現代史を一貫する反「西洋の衝撃(ウエスタンインパクト)」の伝統的な民族・国家主義思想が存在し、その精神は反キリスト教に典型的に表れ、太平天国から義和団へと通底する「ねじれた連続性」を示しているのだということである。曾国藩・周漢のように太平天国を中国のキリスト教化の運動と見、反太平天国は反キリスト教・反西洋=伝統的聖教防衛だとするなら(そしてそれが恐らく正しい)、それを受けた後年の反キリスト教(仇教)闘争の拡大、そのピークとしての義和団の排外国反キリスト教の国家民族防衛(扶清滅洋)という連続性が見える。この過程は反外国反キリスト教の「民族」精神の展開過程とも言える。「義和団の乱」とは、それで軍事侵攻を正当化した「西洋」諸国と、責任回避を正当化した権力者の都合の言い方で、「義和団」が「太平天国」 と「乱」(人民闘争)で繋がるなどと言うのも虚偽だ。この精神は、辛亥革命と民国の開明化、「打倒孔家店」の啓蒙主義・マルクス主義を経ても、反キリスト教・反文化侵略・反帝国民革命の啓蒙と救亡の二重奏の中で復活し、四九年の革命、文化大革命において間歇泉的に噴出した。この反外国反キリスト教「民族」精神は、現在のキリスト教の急激な拡大に直面して、かつて反革命封建主義「会道門」として徹底弾圧した「一貫道」を公認してさえその拡大化を阻止したいとする共産党の姿勢に顕在化する。「典礼問題」は今なお未解決なのだ。とするならば、太平天国を共産党「農民・土地」革命の先駆としたり、義和団の排外主義を「農民階級の歴史的限界性を持った民族革命思想」などという通説とは異なった歴史像になる。しかし、この方が歴史をより説明可能にするように思う。

内容目次】

第一章 近代中国におけるキリスト教布教と地域社会――その受容と太平天国――  

近代中国へのプロテスタント布教と太平天国/カール・ギュッツラフとI・ロバーツ/

ギュッツラフの福漢会/洪秀全のキリスト教受容と拝上帝会の形成

第二章 一八九一年の熱河・金丹道反乱――移住社会の民衆宗教とモンゴル王公・カトリック教会――

社会背景――モンゴルの地と漢人――/前史――太平天国期の民衆運動――/

秘密宗教組織――金丹道・武聖教・在理教/蜂 起/

反乱のあと――蒙漢不和・義和団・外モンゴル独立へ――

第三章 一八九五年の福建・古田教案――斎教・日清戦争の影・ミッショナリー外交の転換――

事件の発生/斎 教/古田地区のプロテスタント布教/

事件の国際的背景――日清戦争の影/菜会活動の拡大と官との対立/

襲撃へ/事件の結末――英米ミッショナリー外交の転換

第四章 一八九五年の四川・成都教案――ミッショナリー問題と帝国主義外交――

成都教案――事件の概要と拡大――/暴動の背景と起因/

外交問題化――フランスとイギリス――/アメリカ外交の転換

第五章 ドイツ連邦文書館所蔵の義和団関係資料について

連邦文書館の中文資料/奉天からの中文書信(光緒二十五年二月)・劉家店事件/

ドイツ公使館への投入文書(一九〇〇年六月十一、二日)/

北京義和拳の下令(一九〇〇年六月)/

聶士成の電報(一九〇〇年六月六日)/列国提出の懲罰人名簿(一九〇二年一月)/

付、 山東省陽穀県坡里荘教会について

付論 義和拳の『八卦兜肚』・『万宝符衣』と『掲帖』について

第六章 露清戦争 ―― 一九〇〇年満洲、ロシアの軍事侵攻 

――「アムール川の虐殺」はなぜ起きたか――

義和団事変におけるロシアの動向/

義和団騒乱の満洲への波及と清国軍の攻撃開始

〔東清鉄道の建設・鉄道守備隊について・盛京(奉天)・遼陽・再び盛京(奉天)〕

黒龍江の緊張と戦争回避への外交交渉〔営口・南満洲〕

アムール川の虐殺――なぜ虐殺事件は起きたか――〔黒河・愛琿からチチハルへ〕

ハルビンへ――ロシア軍の満洲侵攻――〔ハルビン・西線での戦闘・吉林三辺と山海関・南部からの進攻〕

増?=アレクセーエフ協定――「日露戦争前夜」へ/

張作霖の登場/?萊峰の「拒洋社会」――熱河朝陽の反ロシア・反賠償金の抵抗

第七章 一九〇一年のロシア人の義和団論――A・B・ルダコフの義和団研究――

ルダコフ論文の概要

〔神秘主義宗派・大刀会、神拳、義和拳、大拳・営口での見聞・組織、思想、儀式・義和団の文献と呪術・キリスト教布教問題と政府による義和団の取り込み・南満洲の大拳・吉林省、黒龍江省〕

第八章 義和団事件とその後の清朝体制の変動

義和団事変と中国政治/事変後の政治的変化/

清末新政について/辛亥革命へ

第九章 近代中国のナショナリズムの変容と介石――清末義和団から国民革命へ――

大衆的プロト・ナショナリズムとしての義和団/

ナショナリズムの文化的変容――新政・辛亥革命・五四・国民革命――/

蔣介石とその民族主義

第十章 日本の義和団研究百年

日本文義和団研究文献目録

あとがき・索引

 

 

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