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近世・近代期筆談記録が語る東アジアの医学・学術交流

近世・近代期筆談記録が語る東アジアの医学・学術交流

◎二松学舎大学東アジア学術総合研究所日本漢学研究センター 日本漢学研究叢刊2

著者 ヴィグル マティアス
ジャンル 日本史
日本史 > 近世
出版年月日 2021/11/30
ISBN 9784762966996
判型・ページ数 A5・292ページ
定価 7,700円(本体7,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

まえがき(ヴィグル・マティアス)


第Ⅰ部 知識人の国際移動による医学・学術交流

 第一章 近世期東アジアにおける知識層医師の移動の意義(ヴィグル・マティアス)
 
 第二章 筆談と近世東アジアの薬物知識の交流 (陳  明)

 第三章 『答朝鮮医問』と朝鮮通信使の医学交流」 (咸 晸 植)

 第四章 清医趙淞陽と日本医師の交流記録などについて(郭 秀 梅)

 第五章 明治漢方医家と清末文人の筆談(町 泉寿郎)

 第六章 近世幕薩琉清の交流ルート再考(沈 玉 慧)
 
 第七章 通信使の筆談と大陸情報収集(程 永 超)


第Ⅱ部 医学関係の筆談記録

 史料(1)『朝鮮人筆談』(解説:ヴィグル・マティアス、翻刻:ヴィグル・マティアス・町泉寿郎)

 史料(2)『朝鮮筆談』(解説:ヴィグル・マティアス、翻刻:ヴィグル・マティアス・町泉寿郎)


索 引
著者紹介

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内容説明

【まえがきより】(抜粋)

 本書は町泉寿郎氏を代表者とする「二松学舎大学 文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成事業(略称SRF)」の一つとして、二〇一八年一二月七日に浙江大学、二松学舎大学共催で行われた国際シンポジウム「近世東アジア地域における医師の国際移動や学術交流―医学関係の筆談記録を中心に―」に基づくものである。表題では 「近世」としているが、シンポジウムにおいては一五世紀から一九世紀後半まで東アジアで行われた医学・学術交流を広い視野で考えた。また、「医師」というのは通信使、使節など外交目的として国境を渡った、あるいは貿易のネットワークを利用して東アジアで移動した知識人医師を指す。さらに知識人医師とは漢字・漢文を媒体に東アジアの伝播・受容された『黄帝内経』、『傷寒論』など中国医学古典に通じた医師のことを指す。いわゆる治療活動をしながら、学問を重んじた医師である。
 本書の内容は二部に分かれている 。第一部では日本の視点から知識層医師、知識人の国際移動の意義という問いに立脚しながら、明・清国、朝鮮、そして琉球の視点から近世東アジアにおける医学・学術交流、情報収集とそのルートというテーマに即して、あわせて七章によって議論が展開されることになる。
 第一章「近世期東アジアにおける知識層医師の移動の意義」では、医学関係の筆談記録についての先行研究をめぐり、知識人医師の移動を通じて東アジアにおける医学交流を再考し、特色を示す例を取り上げながら一つの見方を提示する。  
 第二章「筆談と近世東アジアの薬物知識の交流」では、明末から清代晩期まで日常生活のグローバル
コミュニケーションのツールとして医学関係の筆談記録の内容について論じながら、朴趾源と王民皞の間に行われた問答、日韓の筆談などを主な資料として東アジアの筆談活動の中で、薬品の交流について考察する。
 第三章「『答朝鮮医問』と朝鮮通信使の医学交流」では、朝鮮医師尹知微と明儒医王應遴の答辯を収録する『答朝鮮医問』(一六二二)と一七二〇年に京都で刊行された『桑韓唱和塤箎集』を比較しながら、両問答の形成とその刊行をめぐる疑問について論じる。
 第四章「清医趙淞陽と日本医師の交流記録などについて」では、『唐医趙淞陽文録』、『趙淞陽医案』、『万里神交』を中心に、享保一一(一七二六)年十月九日から享保一四(一七二九)年八月二八日にわたり長崎に三年間滞在した清国の医師趙淞陽の活動調査をしながら、趙淞陽の医療業績や交友事情を明らかにする。
 第五章「明治漢方医家と清末文人の筆談」では、現在までにあまり研究者の関心を惹くこともなかった明治期の清国公使館員と日本人との医学関係筆談の状況と、明治一五年に行われた『清客筆話』の形成を明らかにしながら、その内容について考察する。
 第六章「近世幕薩琉清の交流ルート再考」では、江戸幕府と薩摩藩は琉球を通じて、清国と直接的な学術交流をも求めたが、自国の自主性を保つために琉球にとってはその要求にこたえるのは難しかったと述べ、一七世紀中期以降、清朝の通事・中央官僚を通じて、情報・商品・文物・技術などが伝達されたことを検討しながら、日薩琉清の交流ルートを明らかにする。
 第七章「通信使の筆談と大陸情報収集」では、現在まで通信使研究と中国(明清)との関連性を重視されなかったという出発点から通信使筆談における政治、地理情報など中国情報収集の実態を述べながら、江戸幕府にとって中国北方情報収集の意義を論じ、その収集活動を考察する。
 第二部では一七世紀~一八世紀の医学交流を語る二つの筆談を翻刻し紹介する。一六三六年と一七四八年に通信使の一員として来日した朝鮮医師と日本医師の面談の記録であり、互いの医療文化について何の関心を持ち、どのような医学・学術交流が行われていたかを伺うことができる。一一二年にわたって日本に派遣された通信使であり、時代背景の影響で問答の内容の変遷も興味深い。
 本書は本書は日本、中国、韓国、台湾やフランスの研究者による、さまざまな観点から知識層医師・知識人の国際移動による一七世紀~一九世紀の東アジアで行われた医学・学術交流を再考する試みである。この試みがどれほど成功したかは読者に委ねるしかないが、本書により近世・近代初期における医学・学術的知識の流通に関する理解を深めて、新しい知見を加えることができれば幸いである。

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