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江戸歌舞伎の情報文化史

江戸歌舞伎の情報文化史

◎役者絵・文献資料に収録される情報・特徴を分析し、江戸の都市社会を活写する!

著者 倉橋 正恵
ジャンル 日本古典(文学)
日本古典(文学) > 近世文学
出版年月日 2021/03/31
ISBN 9784762936562
判型・ページ数 A5・634ページ
定価 15,400円(本体14,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

【主要目次】
凡 例
口 絵(カラー)

まえがき 
 江戸時代の芸能情報
 研究史
 本書の研究方法

【研究篇】

第一部 江戸歌舞伎興行の実態と上演情報の発信

 第一章 『中村座日記』
  一、演劇博物館蔵『中村座日記』   
  二、『中村座日記』の筆録者
  三、『中村座日記』の資料価値    
  四、公儀との関係

 第二章 中村座の日々
  一、中村座の一年    
  二、顔見世の残存   
  三、芝居の準備

 第三章 劇場の情報発信
  一、番付の種類
    (a)顔見世番付
    (b)辻番付
    (C)役割番付
    (d)絵本番付・絵尽し
  二、番付の版元     
  三、番付の製作    
  四、番付の配布

 第四章 役者の契約情報
  一、役者との契約    
  二、二代目片岡我童の所属問題
  三、二代目尾上多見蔵に対する訴訟

第二部 芸能情報の商品化

 第一章 役者絵
  一、役者絵の製作    
  二、「花埜嵯峨猫魔稿」  
  三、役者と役者絵

 第二章 幕末の役者評判記
  一、天保改革以後の八文字屋系役者評判記の動向
  二、八文字屋系役者評判記の作者         
  三、『役者金剛伝』
  四、八文字屋系役者評判記以外の役者評判記
  
 第三章 役者似顔給金付
  一、名称と販売形態   
  二、特徴
    (a)役者
    (b)似顔
    (C)紋・住所
    (d)見立、位付、給金
  三、板木の流用                 
  四、役者評判記との関係
  五、役者似顔給金付様式の普及          
  六、役者似顔給金付の情報
 
 第四章 役者見立番付
  一、役者見立番付とは  
  二、綿屋喜兵衛    
  三、吉野屋勘兵衛
  四、見立番付の競合と差別化

 第五章 一枚摺役者評判記
  一、弘化期以降の役者の評判を記す出版物      
  二、「四谷怪談 いろは日記 桜荘子 当狂言三座芸評」
  三、「花競 善悪見立御鬮箱」     
  四、江戸の人々が求めた役者情報

 第六章 役者評判絵
  一、役者評判絵とは         
  二、他の風刺画との比較から見る役者評判絵の特性
  三、「きたいなめい医難病療治」の系譜
  四、役者評判絵と世相風刺画

第三部 芸能情報の収集と利用

 第一章 歌舞伎年代記
  一、江戸と上方における興行年表系年代記
  二、石塚豊芥子の『花江都歌舞妓年代記続編』
  三、成立過程と典拠資料       
  四、七代目市川団十郎との関係と制作目的
  五、歌舞伎文化浸透の象徴

 第二章 歌舞伎年代記の展開
  一、『八代目市川団十郎一代狂言記』  
  二、『坂東しうか一代狂言記』
  三、歌舞伎年代記の再生産

 第三章 八代目市川団十郎の死に関する噂とメディア
  一、団十郎の死についての噂     
  二、「忠臣蔵四だん目抜文句」
  三、団十郎と『仮名手本忠臣蔵』の塩冶判官
  四、切腹姿の死絵

 第四章 四代目中村芝翫と五代目坂東彦三郎から見る幕末江戸歌舞伎
  一、芝翫と彦三郎の人物像      
  二、八文字屋系役者評判記からみる二人の関係
  三、八文字屋系役者評判記以外の資料からみる二人の関係
  四、芝翫と彦三郎の違いと幕末の江戸が求めた役者像

 第五章 描かれた黙阿弥
  一、役者絵に描かれた黙阿弥     
  二、文化活動の中の黙阿弥像


【資料篇】翻 刻

Ⅰ  「尾上多見蔵給金前貸滞出入ニ付御尊判奉願候一件留」翻刻
Ⅱ―1『[役者金剛伝稿本]』翻刻
Ⅱ―2 文久二年正月刊役者評判記『役者金剛伝』(下巻江戸之部)翻刻

初出一覧
あとがき
図版所蔵一覧
索 引

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内容説明

【まえがき より】(抜粋)

 江戸時代の中でも特に、江戸後期から幕末〔本書においては江戸幕府の末期として、嘉永から慶応期(一八四八-六八)とする〕にかけては、整版印刷の普及によって出版技術と流通システムが飛躍的に進歩したことで、出版文化が最高潮に発達していた時期であった。こうした状況の中で歌舞伎に関連する出版物についても、広く世間へ流通させるための高度で緻密なシステムが構築されていた。したがって劇場側が作成に責任を負う芝居番付といった一次的な情報だけでなく、舞台の一場面を描いた役者絵や、芝居の中のせりふを書き抜いたせりふ本、芝居の内容を絵入り小説化したものなどの二次的な創作物が、芝居の上演に連動して出版、販売された。それに加え、世間の評価や評判を取り込んだ役者評判記や芸能関係の一枚摺、役者の噂や劇壇の様相を絵画的に表現した風刺画などといった三次的な創作物、すなわち世間の評判を文芸化、もしくは視覚化させて、情報を商品化した出版物へと繋がっていったのである。
 本書では、十七世紀前半から江戸で櫓を構える中村座で記録されていた『中村座日記』を主として、幕内資料から得られる歌舞伎興行の実態、及び劇場側から発信される芝居の上演情報の動きを中心に据えながら、文学や美術、風俗、社会史などの多角的な方面から歌舞伎が多様なジャンルの出版物や著作物に及ぼした影響について考察を行い、その密接な交流の実体を解明する。これと同時に、「情報」という視点を通して、幕末の江戸を中心とした都市生活者が、どのようにして芸能情報を発信、伝達、享受し、またそこへ新たな情報を付加して再度伝播させていくといった、情報循環と浸透の様子についての考察を行いながら、歌舞伎を中心とした江戸時代の情報文化史の様相の一端を明らかにするものである。

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