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唐代前期北衙禁軍研究 汲古叢書164

唐代前期北衙禁軍研究 汲古叢書164

◎宮廷政変と表裏一体の、北衙の構造と性格を正面から問い直す!

著者 林 美希
ジャンル 東洋史(アジア)
東洋史(アジア) > 魏晋隋唐
シリーズ 汲古叢書
出版年月日 2020/12/16
ISBN 9784762960635
判型・ページ数 A5・356ページ
定価 9,900円(本体9,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次


序 章
(1)問題の所在
(2)先行研究の成果と課題
(3)本書の視座と構想

第Ⅰ部 前期北衙の誕生と宮廷政変

第一章 唐代前期宮廷政変をめぐる北衙の動向
一 唐代兵制における北衙の位置づけ   
二 五つの宮廷政変の形勢と兵力の動向
三 宮廷政変の条件と北衙のセオリー

第二章 唐代前期における北衙禁軍の展開と宮廷政変
一 北衙に関する先行研究と基本史料   
二 前期北衙の成立
三 前期北衙のその後の展開       
四 宮廷政変と北衙禁軍の相関性

第三章 閑厩体制と北衙禁軍
一 唐の閑厩とその変遷──左右六閑から内外閑厩へ
二 閑厩での飼養とその立地       
三 北衙と閑厩馬の関係

第四章 厩馬と馬印──馬の中央上納システム──
一 監牧での馬の飼養とその用途     
二 馬の移管──地方から中央へ
三 上納馬の選抜印とその機能

第Ⅱ部 変貌する北衙と安史の乱

第五章 左右龍武軍の盛衰──唐元功臣とその後の禁軍──
一 唐元功臣の解釈をめぐって      
二 龍武軍における唐元功臣の分布
三 安史の乱と唐後半期の北衙

第六章 長安城の禁苑と北衙
一 唐長安城の禁苑とは         
二 軍事拠点としての禁苑
三 皇帝親衛兵の理念と現実

第七章 唐代前期における蕃将の形態と北衙禁軍の推移
一 蕃将の原初的形態と北衙との関わり  
二 北衙蕃将の盛衰と変貌
三 北衙の段階的発展と蕃将の動向

第八章 「国際紛争」としての安史の乱──幽州と霊州の間──
一 唐の羈縻政策と北衙蕃将──安史の乱の背景
二 安史の乱の構図──幽州と霊州の攻防
三 朔方節度使の兵力と戦力構成

終 章 
(1)第Ⅰ部のまとめ
(2)第Ⅱ部のまとめ
(3)得られる知見と今後の見通し

参考史料・文献一覧
初出一覧
あとがき
英文目次
中文要旨
索引

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内容説明

【序章より】(抜粋)

 唐王朝の軍事力は、府兵制という一元的なシステムのみでは捕捉できないさまざまな性格・出自を持つ者たちによって重層的に形作られているということに気がつく。それは唐が、少なくともその前半期においては、多元的な構造を有する「帝国」であったこととも深い関係があるだろう。その最大の特色とされる「国際性」や「帝国的支配体制」とはどのような構造を持ち、それはどのような装置によって機能していたのか、本書が目指すのはその解明である。そして軍制に限っていえば、国の根幹をなす軍事力とはいかなるものであったのか、という問題については、これまで捨象されてきた近衛兵たち、すなわち北衙禁軍の存在こそが新たな手がかりを与えてくれるのではないだろうか。(中略)本書は、以下の二部構成をとる。まず第Ⅰ部「前期北衙の誕生と宮廷政変」では、唐代前期において 北衙という軍事組織がどのように発展したのかという問題を、それと密接に関わる宮廷政変と馬政とい う切り口から考察する。続いて第Ⅱ部「変貌する北衙と安史の乱」では、唐王朝を大きく変貌させた安史の乱を念頭に置きながら、北衙は王朝のなかでどのような機能・役割を負っていたのかという問題にアプローチする。
 第一章では、北衙を検討するための題材として、従来、唐代前期の宮廷政変としては太宗の「玄武門の変」に比して注目度の低かった五つの宮廷政変を取り上げる。玄武門の変とそれ以外とでは「北軍」の中身が異なるという問題についてはこれまであまり重視されてこなかった。すなわち、玄武門の変にはなく、そして残りの政変に共通する要素として、「北衙」と称される軍団の関与が認められるという点である。本章では、宮廷内の政治運営と北衙との関係性という視点から五度の政変を追跡し、唐代前期宮廷政変のセオリーを明らかにする。
 第二章では、唐代前期における北衙の成立と展開を跡づける。北衙という制度の変遷過程を明確にするとともに、その変遷が宮廷政変とどのように影響しあったかという点をクローズアップしてみたい。
 第三章では、騎馬軍である北衙とその馬との関係に注目する。閑厩と閑厩馬の様相を明らかにしたうえで、厩舎の体制の推移とそこで養われる馬の運用とが北衙の体制にどのように波及したかを考察する。
 第四章では、前章で見た閑厩馬の運用に関連して、その根底にある閑厩への馬の供給方法について検討を行う。閑厩馬の大多数は、地方の監牧から選別され京師に「上納」されてくる良馬である。閑厩馬を含む京師で飼養される官馬(厩馬)を中心に唐王朝の馬の管理体系を把握し、「天聖令厩牧令」の条文によって馬の選別システムを解明するとともに、地方から中央への馬の上納を分析する。
 第五章では、前期北衙のうち、玄宗との密接な関係性を軸に隆盛を極めた左右龍武軍に焦点を当てる。龍武軍が唐の北衙禁軍史にどのように位置づけられるのかを考察するとともに、安史の乱後に登場する神策軍以外の後期北衙の様相を描く。
 第六章では、北衙の駐屯地でもある唐長安城の禁苑に焦点を当てる。長安城の禁苑と北衙との軍事防衛上の関係と、皇帝近衛兵の長安市中での活動形態を追いかける。
 第七章では、北衙と蕃将との関係に迫る。蕃将と北衙との関係を掘り下げることで、多民族複合国家としての唐王朝がそれを維持するために用いたシステムを解明する。
 第八章では、唐という国家を根底から揺るがした安史の乱とは何であったか、という問題を扱う。従来、唐国内の問題に矮小化されがちであった戦乱勃発の背景やその本質は、当時の東ユーラシアの国際情勢を視野に入れたうえで描き直されなくてはならない。本章では、その点を踏まえて安史の乱の構造を再検討する。



The Northern Command: The Imperial Guards during the Early T’ang Period

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