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汲古選書50 山陜の民衆と水の暮らし

汲古選書50 山陜の民衆と水の暮らし

新出資料を用い、歴史的伝統としての水利組織実態を民衆の目線から解明する!

著者 森田 明
ジャンル 総記・書誌 > シリーズ
シリーズ 汲古選書
出版年月日 2009/12/09
ISBN 9784762950506
判型・ページ数 272ページ
定価 3,300円(本体3,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次


序 章 華北水利史研究の新資料とその価値   

第1章 山西の生活用水利用組織の概況  

第2章 山西の生活用水利用組織の形成と特色   

第3章 山西の生活用水利用組織の伝統と改造   

第4章 山西の生活用水利用組織の伝統と現代化   

第5章 山西の生活用水利用組織と祭祀儀式   

第6章 陝西の堯山信仰と祭祀組織   

第7章 陝西の堯山信仰と祭祀活動   

あとがき
索  引

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内容説明

【あとがき】より

小著は中国で2003年に相継いで公刊された、『陝山地区水資源と民間社会調査資料集』(全4集)の特定部分についての覚え書きである。本資料集は窮極の地方村落におけるフィールドワークによる、民間文献資料(碑刻水冊、地志、聞書き等)の発掘の成果を、総合的に検討整理し編集したものである。その意味での学術的価値は非常に高く研究上注目に価する。極めて限られた水資源をめぐって、基層社会の民衆が、生存のためにどのように集団的利益を守るための努力をしてきたかの記録である。彼らは限りある水資源を、最大限に延長して利用し、可能な限り過度の用水を避けることを心がけ、最大限の節水に努力したのである。彼らは長い歴史を通じて、所与の自然環境と向きあい、それを受け入れる中で、人間の生活と家畜の飼育という最少限の水の確保のために、真剣な営為と挑戦を続けてきたのであった。そこでは出来るだけ新しい水源の開発を避けることも、1つの省エネルギー行為であり、環境保護の行為と自覚していたが、それは現代においても、喫緊かつ不可欠な認識に外ならない。そうした彼らの実践のための、社会的、宗教的、民俗的な伝統的システムとしての活動における、歴史的遺産観、社会道徳観、環境資源保護観念等の経験値は、まさに現代の我々に求められている価値観そのものであり、彼らの営為の多くは我々に大きな教訓を与えるものである。

 今まさに地球環境の危機が国際的な問題となっており、その1つが「水饑饉」、「水不足」に外ならない。そうしたなかで、本資料集は歴史的伝統を通じて明らかにされた、人間の叡智の記録であることに注目し、これに大いに学ぶべきであることを示唆しているものと考えられる。

 ところで、私は今まで主として中国における水利組織と村落、公権力などとの関係を中心にした、水利組織の社会的性格、いわゆる水利社会史研究に取り組んできたが、その目的は民衆(農民)の主体性や、彼らの共同体的、集団的システムの構成、運営、管理の実態を、基底社会の民衆の目線から解明することであった。しかし、それにはいわゆる公的資料の制約の壁は厚く、隔靴掻痒の感を免れなかった。そうした中での本資料集との出会いは、文字通り目から鱗の例えの如く、民間碑刻資料は、従来未知の基底社会の生き生きとした民衆の行動的な諸相を、鮮明にクローズアップし、山陝地方の水環境と民衆との関係を提示してくれたのである。したがってその内容に多大の関心と興味を持った私は自照の意味をこめて、それを恣意的、部分的に読み解いた覚え書きが小著である。

 

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