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明代における詞の受容

――文字の文學と音の文藝――

明代における詞の受容

◎難解な詞の受容を大量の資料調査と精密な校勘作業により解明した実証的論考なる!

著者 藤田 優子
ジャンル 中国古典(文学)
中国古典(文学) > 明清
出版年月日 2020/03/22
ISBN 9784762966637
判型・ページ数 A5・330ページ
定価 8,800円(本体8,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

序(小松 謙)

序 章


第一部 讀まれる詞と歌われる詞

第一章 問題の所在
 第一節 詞の形式と特徴
 第二節 北宋期以降の詞
 第三節 本書における問題意識

第二章 詞の歌唱をめぐる記錄の檢討
 第一節 雅俗という問題
 第二節 「歌唱の衰頽」として語られる現象
  (1)理論の高度化
  (2)詞作の方法
  (3)歌辭の難解さ
 第三節 民閒で繼續された歌唱        
 第四節 明代後期における「詞」


第二部 明代詞籍刊行の社會的背景

第一章 『花草新編』小考――分調本『草堂詩餘』の影響と『花草稡編』への繼承――
 第一節 『花草新編』槪要          
 第二節 『花草稡編』との關係――序文の類似から――
 第三節 成立時期異説
 第四節 分調本『草堂詩餘』の影響――周邦彦詞の來源から――
  (1)『草堂詩餘』の二系統
  (2)『花草新編』の依據した『草堂詩餘』の系統
  (3)分類本系統『草堂詩餘』未收作品について
  (4)陳注『片玉集』の利用
 第五節 『花草稡編』への繼承――柳永詞の詞題から――

第二章 『花草新編』に見る分調編次詞選集の意義――成立の背景と讀者の要求――
 第一節 詞選集の使途と編次樣式       
 第二節 分調編次詞選集誕生の前夜
 第三節 詞譜としての分調編次詞選集

第三章 『花草稡編』における白話小説の利用――明代詞籍の刊行を可能にしたもの――
 第一節 『花草稡編』槪要
 第二節 『警世通言』第十四《一窟鬼癩道人除怪》
 第三節 『古今小説』第二十四《楊思温燕山逢故人》
 第四節 『花草稡編』と明代後期の社會狀況


第三部 歌われる文學としての詞

第一章 南北藝能と詞――北宋藝能構成要素の繼受――
 第一節 套數の發生             
 第二節 唱賺から諸宮調、北曲へ
 第三節 唱賺と諸宮調、南北曲の狹閒

第二章 詞と南北曲の音樂的連續性――藝能を介した歌辭文藝閒の交流――
 第一節 異種歌辭文藝閒の媒介――「風入松」 
 第二節 崑曲で歌われる詞の歌辭――「浪淘沙」
 第三節 理論と實演の乖離――「點絳唇」

第三章 「眞詩」への希求――呉江派による歌辭の改作をめぐって――
 第一節 時代背景と改作の樣相        
 第二節 改作の基本目的と呉江派の例
 第三節 歌唱という行爲の新たな意義

附考 明代後期における南北・詞曲の交差と分岐
 第一節 北方の趣「蒜酪」          
 第二節 詞と曲の境界
  (1)詞と白話
  (2)詞とパロディ
 第三節 南戲・南曲と雜劇・北曲
 第四節 白話小説と「蒜酪」

終 章

おわりに
初出一覧
索 引

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内容説明

【本書より】(抜粋)
 本書は、全三部によって構成される。
 第一部では、詞の衰亡期とされる時代に着目し、受容者の社会的階層と立脚する立場をふまえつつ、当時における受容の様相を検討する。第一章では先行研究を踏まえ、文芸ジャンルとしての詞および北曲擡頭以降の状況を概観する。第二章では、詞論や戯曲論に表れた知識人の価値観を検討し、詞が歌唱不能と見なされてきた要因を探るとともに、民間における「うた」としての詞の実態を浮かび上がらせる。

 第二部では、明代後期、古典文学の一ジャンルとなった詞の展開を読み解く。なぜ当時、詞籍は編纂され、需要を拡大させたのか。この問題について、明代後期の詞選集『花草新編』『花草稡編』およびその周辺の詞籍を中心に、詞を取りまく状況を描写し、刊行と社会的背景との関係性を検討する。第一章では、嘉靖期編纂の詞選集『花草新編』を取り上げ、編纂に使用された資料の特定および利用方法の一端に迫るとともに、後裔とされる『花草稡編』への継承の様相を繙く。第一章を踏まえ、第二章ではこれら明代後期詞籍のあり方をもとに、刊行の目的と読者の関心の所在を探る。これによって、当時の詞籍を成立せしめた社会的要請が浮き彫りとなるであろう。第三章では萬暦年間に編まれた詞選集『花草稡編』のテキスト分析を通して当該書の位置づけを行うとともに、刊行を促した文化的・社会的基盤について考察を加える。

 第三部では、「うた」として歌われる詞の展開を追う。詞の旋律は、詞という文学様式の衰頽とともに消滅したのであろうか。こうした問題意識をもとに、南北曲を始めとする別種歌辞文芸との関係、さらにこれらを用いた芸能との関係も視野に入れつつ、受容の実態と明代後期における文学的展開に光を当てる。第一章では、詞の楽曲を用いた宋代芸能の形式が金の諸宮調、元の雑劇、宋元明の南戯といった複数の芸能に継承され、楽曲とともに定着してゆく過程を追う。第二章では、これらの芸能に用いられる諸宮調、北曲、南曲などの異種歌辞文芸と詞との関係性を個別の楽曲の面から論じ、歌辞文芸間の音楽的連続性を検討する。第三章では、明代後期における「真」なるものへの追求の高まりの中、詞を含む民間の「うた」が新たな意義を獲得し、文学へと取り込まれてゆく様相を描き出す。

 以上三部の検討を通して、文字で読む文学としての詞、さらには旋律にのせて歌われる文芸としての詞に迫り、明代後期におけるその展開を一端なりとも明らかにすることを試みる。



Acceptance of Ci poetry in Ming Dynasty

Literature of words and Literary art of voice

 

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