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明代短篇小説と戲曲の研究

明代短篇小説と戲曲の研究

◎ジャンルや文体の差異を含む作品を検討し、大衆的な娯楽となった明代通俗文学の変化と発展の過程を探る

著者 大賀 晶子
ジャンル 中国古典(文学)
中国古典(文学) > 明清
出版年月日 2018/03/14
ISBN 9784762966156
判型・ページ数 A5・312ページ
定価 8,800円(本体8,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

序(小松 謙)
序 章


第一部 短篇白話小説と文言小説


 第一章 短篇白話小説における形式の變遷
             ――「六十家小説」の韻文的要素を中心に――
       「六十家小説」「熊龍峯四種小説」と「三言二拍」
       各篇における韻文的要素とその異同の特徴
       短篇白話小説の變容
       韻文的要素對照表

 第二章 短篇「白話」小説の内部における「文言」小説
       「六十家小説」「熊龍峯四種小説」における文言文テキスト
       初期短篇「白話」小説の成り立ち
       文體と形式

 第三章 韻文的要素の導入における語り手介入と文言小説の関係
       韻文的要素における人物名
       登場人物による詩詞とその導入――明代
       詩詞とその導入、詩話との關係――唐宋
       韻文という接點


第二部 短篇白話小説と戲曲


 第四章 短篇白話小説「張于湖傳」と雜劇『女眞觀』
       「張于湖傳」のテキスト
       「張于湖傳」について
       雜劇『女眞觀』について
       「張于湖傳」と『女眞觀』

 第五章 南戲『玉簪記』考――張于湖物語の變遷――
       南戲『玉簪記』について
       「張于湖傳」『女眞觀』との關係
       詩詞の共有

 第六章 公案小説・戲曲における韻文としての裁判文書
       「花判」
       雜劇における韻文の裁判文書と「斷」
       明代小説における韻文の裁判文書


第三部 戲曲と文言小説


 第七章 文言小説「龍會蘭池録」考――もう一つの『拜月亭』――
       「龍會蘭池録」の構造
       背景にあるもの――詩詞と會話に關して
       背景にあるもの――辯舌、長篇の韻文に関して

 第八章 文言小説「嬌紅記」と雜劇『金童玉女嬌紅記』
       「嬌紅記」とその戲曲化
       詩詞およびト書と臺詞について
       院本插演
       長い獨白

 第九章 明代における西廂故事の受容――「鍾情麗集」に見える議論を手がかりに――
       西廂故事の變遷
       西廂故事の後續作
       小説内部での西廂故事への言及・議論
       「鶯鶯傳」と『西廂記』
       『西廂記』批判の意味するもの
       南北音韻問題への意識

終章

おわりに  
初出一覽  
索引

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内容説明

【序章より】(抜粋)

 本書は、中國近世において大衆向けの出版活動が本格化した時代である明代の讀みもの、その中でも主に物語を持った讀みものの世界に主題を求めるものである。本書においては、短篇白話小說、戲曲、文言小說を取りあげている。小說と戲曲、白話文學と文言小說といったジャンルや形式上の差違を含むいくつかの作品を、大衆的な娛樂のための讀みものという枠組みでとらえ、それぞれの作品の性格や相互の關係がどのようなものであったかを探っていく。一つ一つの作品は小規模な、あるいは文學的價値の低いマイナーなものであっても、それらの內部に含まれている樣々な要素がどのような背景を持っているかを明らかにすることで、讀書を娛樂として享受し始めた時代の人々が書物に何を求めていたか、彼らにとって物語とはどのように語られるべきものだったかが浮かび上がってくるであろう。
 本書の構成は以下のとおりである。全三部から成り、第一部では短篇白話小說を中心に、文言小說との關係性について考察する。現存する最も古い短篇白話小說テキストとしては嘉靖年間の「六十家小說」、續いて萬曆年間のものと思われる「熊龍峯四種小說」があり、その後、天啓・崇禎年間に相次いで成立・刋行された「三言二拍」が短篇白話小說を代表する存在となる。まず第一章において、「六十家小說」と「熊龍峯四種小說」のテキストのうち「三言二拍」にも收錄されている作品十二篇を取りあげ、新舊二種のテキストを比較することにより、明末において短篇白話小說の形式や敍述がどのように變化したかを分析する。これは早くから硏究對象とされてきたテーマであり、先學の硏究成果を確認するとともに、短篇白話小說の文面の特徴をまとめることで、第二章以降の議論の土臺とすることを目的とする。第二章では同じく「六十家小說」「熊龍峯四種小說」の中から、內部に文言小說テキストを含む作品を取りあげ、「白話小說」の成立と、その過程における白話と文言の關係性について考察する。第三章では物語の外部から語りをおこなう語り手の視點に着目し、白話小說特有の語り口と文言小說との關係を考察する。
 第二部では短篇白話小說と戲曲の關わりを扱う。主として取りあげるのは、女道士と書生の戀を描いたロマンスとして現在でも演じられる『玉簪記』の物語である。第四章・第五章において、同題材による短篇白話小說「張于湖傳」と雜劇『女眞觀』、および南戲『玉簪記』を取りあげ、小說と戲曲二種のそれぞれの特徴と相互の關係について分析する。續いて第六章では、これら三種に共通して見られる裁判の場面に着目し、韻文の裁判文書を特徴とする物語の系譜について考察する。これを通して、白話小說と戲曲のみならず文言小說も含め、ある共通の性格を持った韻文により結びつけられる物語の類型を浮かび上がらせる。    
 第三部では文言小說を起點に、戲曲との關わりを通して明代通俗文學のたどった變化と發展の過程を探る。取りあげるのは、元明期の文言小說の特徴でもある長篇作品である。第七章では戲曲『拜月亭』のストーリーをもとにした長篇文言小說「龍會蘭池錄」を取りあげ、その白話文學的性格と、背景にある要素について分析する。第八章では元代の文言小說「嬌紅記」を明代初期に戲曲化した『金童玉女嬌紅記』を取りあげる。大量の詩詞を含む長篇文言小說である「嬌紅記」の內容を取り入れた、戲曲としては奇妙な文面を持つこの作品の分析を通して、演劇由來の讀みものが發達していく試行錯誤の過程が見えてくる。第九章では、中國古典文學史上最も有名なラブロマンスである西廂故事の、明代中期における影響と受容の樣相を、西廂故事の影響のもとに生まれた「嬌紅記」のパロディである長篇文言小說「鍾情麗集」から讀み解く。
 これらの讀みものの文面に對する分析を通して、ジャンルや文體といった枠組みを超える形で、明代における「讀書の楽しみ」の歷史を、その一角なりとも明らかにすることを試みる。



Study on Short Story and Drama of Ming Dynasty

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