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汲古叢書132 中国古代環境史の研究

汲古叢書132 中国古代環境史の研究

◎東アジアの古代都市および水利施設に着目し、都市はどのような環境で成立したのか考察する

著者 村松 弘一
ジャンル 東洋史(アジア)
東洋史(アジア) > 殷周秦漢
シリーズ 汲古叢書
出版年月日 2016/02/26
ISBN 9784762960314
判型・ページ数 A5・512ページ
定価 13,200円(本体12,000円+税)
在庫 在庫あり
 

内容説明

【主要目次】

 序 章 秦漢環境史研究の現在

第一部 秦漢帝国の形成と関中平原

 第一章 黄土高原西部の環境と秦文化の形成―礼県大堡子山秦公墓の発見―

 第二章 秦の関中平原西部への拡大と地域開発―西垂から雍城へ―

 第三章 関中平原東部への遷都と開発の展開―雍城から咸陽へ―

 第四章 中国古代関中平原の都市と環境―咸陽から長安へ―

 第五章 中国古代関中平原の水利開発と環境―鄭国渠から白渠へ―

第二部 淮北平原の開発―漢から魏晋へ―  

 第六章 中国古代の山林藪澤―人間は自然環境をどう見たか―

 第七章 魏晋期淮北平原の地域開発―咸寧四年杜預上疏の検討―

 第八章 漢代淮北平原の地域開発―陂の建設と澤―

 第九章 魏晋・北魏時代の淮北平原における陂の建設―『水経注』の記載を中心に―

第三部 水利技術と古代東アジア―淮河流域から朝鮮半島・日本列島へ―

 第十章 中国古代淮南の都市と環境―寿春と芍陂―

 第十一章 後漢時代の王景と芍陂(安豊塘)

 第十二章 古代東アジア史における陂池―水利技術と環境―

 第十三章 塢から見る東アジア海文明と水利技術

第四部 黄土地帯の環境史

 第十四章 秦漢帝国と黄土地帯

 第十五章 黄土高原の農耕と環境の歴史

 第十六章 黄河の断流―黄河変遷史からの視点―

 第十七章 澤から見た黄河下流の環境史―鉅野澤から梁山泊へ―

 第十八章 陝西省関中三渠をめぐる古代・近代そして現代

 第十九章 洛恵渠調査記

 附 章 東アジアの環境史

  初出一覧/あとがき/索 引

【「はじめに―本書の目的と構成―」より】(抜粋)

 本書は中国古代の関中平原・淮北平原・黄土高原・黄河下流、さらには東アジアにおける人間と自然環境の関係史を復原しようとする試みである。序章「秦漢環境史研究の現在」では秦漢史研究における環境史の研究を概観し、近年の研究が何を問題としているのかについて論じる。

 第一部「秦漢帝国の形成と関中平原」は関中平原を対象地域とし、そこを拠点とした秦のはじまりから統一そして漢への過程について都市を中心に論じる。

 第一章「黄土高原西部の環境と秦文化の形成」では秦公となって最初に拠点とした黄土高原西部の西垂とその周辺の環境について述べ、第二章「秦の関中平原西部への拡大と地域開発」では西垂から雍城への遷都の過程と関中平原西部の開発の関係について論じる。第三章「関中平原東部への遷都と開発の展開」では雍城から櫟陽・咸陽への遷都の過程と晋・魏との抗争そして地域開発との関係について言及する。第四章「中国古代関中平原の都市と環境」では咸陽から長安への都市プランの変遷を都市水利の変化から分析した。第五章「中国古代関中平原の水利開発と環境」では戦国秦が建設した鄭国渠と漢代の白渠の灌漑対象区を比較検討し、それぞれの水利施設の性格の差違と背景にある政治的状況の違いを分析する。

 第二部「淮北平原の開発」では淮北平原を対象地域とし、漢から後漢、魏晋南北朝時代に至るまでの澤と陂に焦点を当てる。第六章「中国古代の山林藪澤」では山林藪澤への人間のかかわりかたを類型化し、手つかずの自然環境である山林藪澤に対する古代人の認識を考察する。第七章「魏晋期淮北平原の地域開発」では西晋代の杜預による水害と陂の関係を述べた上疏文を分析し、第八章「漢代淮北平原の地域開発」では杜預以前の漢代における淮北平原の開発のありかたについて澤・陂を中心に述べる。第九章「魏晋・北魏時代の淮北平原における陂の建設」では杜預上疏以後の状況を知るため主に『水経注』の記載に見られる陂・澤の状況を論じた。

 第三部「水利技術と古代東アジア」では淮河流域で開発された「陂」の技術が朝鮮半島・日本列島へと伝わる過程に着目する。第十章「中国古代淮南の都市と環境」では淮河のすぐ南に位置する都市・寿春と水利施設・芍陂の関係が春秋時代から魏晋期に至るまでにどのように変化したのかを検討した。第十一章「後漢時代の王景と芍陂(安豊塘)」では芍陂の機能が灌漑中心へとかわる契機となった王景による修築について、彼の履歴と黄河下流での事績との関係から論じた。第十二章「古代東アジア史における陂池」では「陂」という名称について朝鮮半島・日本列島の事例について整理した。第十三章「塢から見る東アジア海文明と水利技術」では中国大陸では防塁を示していた「塢」が朝鮮半島の石碑のなかでは水利施設を意味していることに注目し、水利施設としての語義が朝鮮半島特有のものであるのか、それとも大陸から伝わったのかについて資料を再度整理し、論じた。

 第四部「黄土地帯の環境史」では関中平原・黄土高原・黄河下流域という黄土地帯全体の人間と環境の歴史について述べる。第十四章「秦漢帝国と黄土地帯」では秦漢帝国の歴史の中で黄土地帯がどのような役割を果たしたのかを政治・社会の側面からまとめた。第十五章「黄土高原の農耕と環境の歴史」では特に黄土高原に着目し、その開発について論じた。第十六章「黄河の断流」では現代の黄河が河まで届かない「断流」という現象について、黄河変遷史のなかでの位置づけをおこなった。第十七章「澤から見た黄河下流の環境史」は黄河下流の鉅野澤の大きさの変化と黄河の変遷との関係について述べた。第十八章「陜西省関中三渠をめぐる古代・近代そして現代」は古代の国渠などを引き継いだ関中三渠の秦漢時代からの歴史を振り返り、近代においてそれが「近代技術」によってどのように修築されたのか、環境へどのような意識をもって整備されたのかを考察する。第十九章「洛恵渠調査記」は現代の関中平原の水利施設の調査記である。附章「東アジアの環境史」は東アジア全体の環境史の研究動向について整理したものである。

 

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