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汲古叢書118 秦漢律と文帝の刑法改革の研究

汲古叢書118 秦漢律と文帝の刑法改革の研究

新出土資料を用い、秦漢律に「刑期」が存在したことを論証した画期的論考なる

著者 若江 賢三
ジャンル 東洋史(アジア)
東洋史(アジア) > 殷周秦漢
東洋史(アジア) > 魏晋隋唐
東洋史(アジア) > 宋元
シリーズ 汲古叢書
出版年月日 2015/01/30
ISBN 9784762960178
判型・ページ数 A5・536ページ
定価 13,200円(本体12,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

【主要目次】
第一部 秦漢の律と文帝の刑法改革
序 章 隷臣妾と爵の価格――秦漢律における労役刑把握の基礎――
第一章 三族刑と誹謗妖言令の除去を巡って
収律相坐法の除去/誹謗妖言令の除去/三族刑について/班固の視角
第二章 髠刑および完刑を巡って  臣瓚説への批判/完と耐/髠鉗城旦舂
第三章 秦律における盗罪とその量刑――ことに盾・両・甲の銭額について――
       秦律における貲額の単位と爵価について/盗罪における貲額/盗罪の量刑としての労役刑と貲罪――漢律との比較――
第四章 秦律中の隷臣妾  黄展岳説の検討/隷臣妾の労役内容
第五章 隷臣妾の刑期について  高恒氏の無期刑説について/隷臣妾の刑期
第六章 秦律中の城旦舂  城旦舂の刑名/城旦舂の労役/城旦舂と隷臣妾
  第七章 秦律および初期漢律における「刑城旦舂」
       「刑城旦舂」の存在/「刑城旦舂」の刑期/「刑鬼薪白粲」および「刑隷臣妾」の刑期
第八章 秦漢律における司寇と隠官――刑と身分――
『睡虎地秦墓竹簡』に見られる司寇/『張家山漢墓竹簡』に見られる司寇/隠官とは
第九章 秦漢時代の鬼薪白粲
鬼薪白粲の労役/恵帝詔と『二年律令』/鬼薪白粲と城旦舂/完鬼薪白粲の存在/文帝期以降
の鬼薪白粲
第一〇章 「罪人有期」について  『漢旧儀』の記述/文帝の刑法改革/隠官と司寇
第一一章 秦漢律における労役刑の実態――繫城旦舂の役割――
繫城旦舂について/奴妾、一般人、隷臣妾が繫城旦舂となるケースについて/刑徒の家族が
民間に貸し出されるケースについて/隷臣妾・城旦舂の司寇/司空律一四六―七簡に即して
第二部 秦漢刑法史研究
秦漢律における不孝罪
秦代に見られる不孝罪/漢代(武帝期以前)に見られる不孝罪/不孝罪の変遷/秦律から唐律へ
  漢代の不道罪  「不道無正法」について/大逆無道と大逆不道/「不道」の概念の成立について
漢代の不敬罪  不敬の語義について/不敬罪とその量刑/不敬・大不敬の時期的特徴
『張家山漢墓竹簡』奏讞書の和姦事件に関する法の適用――公士の贖耐について――
和姦事件と裁判の経過/本件の事件に関連して付記される律の諸規定/公士の贖耐について
  伝統中国における禁錮
官吏身分奪説とその問題点/伝統的禁錮の実態とその特色/錮と禁錮について/禁錮の概念の変
遷/文帝の刑法改革と禁錮
『元典章』および『唐律疏議』に見られる伝統中国の不孝罪
      悪逆罪について/唐律における不孝罪/元代の不孝罪
伝統中国における「孝」と仏教の〈孝〉思想
原始仏教における〈孝〉思想/伝統中国における不孝罪の変遷/中国仏教における〈孝〉思想
第三部 中国古代史の基礎的研究
『漢書』食貨志の「黄金方寸、而重一斤」について――「黄金一斤、直万銭」との関連――
『睡虎地秦墓竹簡』の效律の規定と度量衡/『里耶秦簡』および『嶽麓書院蔵秦簡』に見られる
甲の額と爵価/黄金方寸と標準金塊
中国の古尺について
関野氏の方法論/関野説の問題点とその検討/歴代律暦志の記述と徂徠の方法論/大尺と小尺お
よび度と量の関係/「尺」字の起源と「丈夫」について
漢代の穀価
      戦国期より秦代までの穀価/前漢前期の穀価/前漢後期より後漢初期までの穀価/後漢の百官俸
給制と穀価/穀価の上昇傾向と後漢の穀価
後漢官僚の俸給制における半銭半穀
      宇都宮氏の七銭三穀説と布目氏の半銭半穀論/半銭半穀の原則とその実態/漢代穀価の動向と後
漢の俸給制
『史記』列伝のテーマについて
司馬遷の思想的立場と循環史観/伯夷列伝について/貨殖列伝について/「述而不作」について
 あとがき・初出一覧・索 引

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内容説明

本書は著者四〇年にわたる中国古代史研究の集大成である。三部構成となっており、第一部では研究の中心課題である秦漢律と文帝の刑法改革の問題を考察し、第二部は秦漢刑法史に関連する諸問題についての研究であり、第三部は中国古代史研究における基礎的な問題(度量衡、貨幣、穀価、俸給制、司馬遷論)を扱ったものである。各部ごとに著者独自の問題意識と視点が提示されており、新出土資料を駆使しての古代史研究の醍醐味が各所に留められている。それぞれの論は、その問題意識において繋がりがある。戦国期から前後漢にかけての中国社会が共通の度量衡へと統一に向けての自然の流れを形成し、それを政権担当者がうまく汲み上げつつ制度を形成していったことや、中国の諸制度の独自性や柔軟性の一端を垣間見ることができる。

 

 

 

第一部 秦漢の律と文帝の刑法改革

 紀元前一六七年に行われた文帝による肉刑廃止を骨格とする刑法改革の内容については、今日の段階で必ずしもその実態は分かっていない。その背景となる初期の漢律、さらには漢が基本的にそれを受け継いだ秦律の体系についても、多くの謎が残ったまま、というのが現状である。一九七五年に出土した『睡虎地秦墓竹簡』の研究により秦代の刑法について、それまでの史料的空白が一挙に埋められるかに思われたが、『睡虎地秦墓竹簡』には刑期を規定する条文が見られなかった。その故に、秦律における労役刑はすべて無期刑であり、初めて刑期が設けられたのが文帝の刑法改革においてであった、とする高恒氏の論が出され(一九七七年)、この無期刑(あるいは終身刑)説が中国および(ことに)日本の学界において定説化することとなった。二〇一二年には『嶽麓書院蔵秦簡』が公表された。ここには秦律において罰金額の単位として用いられた「甲」や「盾」が銭額で示されており、研究者はそれまでの秦律と漢律の関係そのものの見直しを余儀なくされることになる。しかしながら、著者にとってはこれがこれまでの多くの疑問の霧を晴らすための重要な契機となった。秦律の罰金の単位であった額がすべて八の倍数となっており、これは秦律の司空律にいう「日居八銭」の規定と連動する数値であり、また、秦の爵制とも関連する銭額であることが明らかとなった。秦律は爵制と刑期とを連動させて体系が組み立てられており、贖刑の制度は、まさに刑期の存在を裏付けるものである、とするのが著者の見解である。秦律を受けて改変された漢律は『二年律令』として初期の漢代社会に施行されていたが、呂后歿後に起きた呂氏一族誅滅という大政変を経た創業の功臣たちに推戴されて即位したのが文帝であった。文帝はその時点の漢律に大胆な手を加え、肉刑を廃止し、罪人に対して社会復帰への道を開くという画期的な改革を行った。この文帝の改革の歴史的意義を見極めるためには、それ以前の秦漢の律に関する全体的な把握が不可欠である。その基礎となるのが、秦漢律において刑期は存在したという事実であり、著者は新出土資料によってその論証を試みた。これが本研究の最大の特色である。

それによって、これまで、『漢書』刑法志の編者班固の視点に左右されてきた現代の研究者の理解の限界を突破することも可能となった。

 

 

序 章 隷臣妾と爵の価格――秦漢律における労役刑把握の基礎――

第一章 三族刑と誹謗妖言令の除去を巡って

収律相坐法の除去/誹謗妖言令の除去/三族刑について/班固の視角

第二章 髠刑および完刑を巡って  臣瓚説への批判/完と耐/髠鉗城旦舂

第三章 秦律における盗罪とその量刑――ことに盾・両・甲の銭額について――

       秦律における貲額の単位と爵価について/盗罪における貲額/盗罪の量刑としての労役刑と貲罪――漢律との比較――

第四章 秦律中の隷臣妾  黄展岳説の検討/隷臣妾の労役内容

第五章 隷臣妾の刑期について  高恒氏の無期刑説について/隷臣妾の刑期

第六章 秦律中の城旦舂  城旦舂の刑名/城旦舂の労役/城旦舂と隷臣妾

第七章 秦律および初期漢律における「刑城旦舂」

「刑城旦舂」の存在/「刑城旦舂」の刑期/「刑鬼薪白粲」および「刑隷臣妾」の刑期

第八章 秦漢律における司寇と隠官――刑と身分――

『睡虎地秦墓竹簡』に見られる司寇/『張家山漢墓竹簡』に見られる司寇/隠官とは

第九章 秦漢時代の鬼薪白粲

鬼薪白粲の労役/恵帝詔と『二年律令』/鬼薪白粲と城旦舂/完鬼薪白粲の存在/文帝期以降の鬼薪白粲

第一〇章 「罪人有期」について  『漢旧儀』の記述/文帝の刑法改革/隠官と司寇

第一一章 秦漢律における労役刑の実態――繫城旦舂の役割――

繫城旦舂について/奴妾、一般人、隷臣妾が繫城旦舂となるケースについて/刑徒の家族が民間に貸し出されるケースについて/隷臣妾・城旦舂の司寇/司空律一四六―七簡に即して

 

 

第二部 秦漢刑法史研究

『睡虎地秦墓竹簡』の出土によって初めて知られるようになった不孝罪についてこれを中国古代の刑法史中に位置づけるという試みをし、続いて不道罪、不敬罪についても漢代刑法史の中に位置づけ、そして時代の降る元の時代における悪逆と不敬の罪についても考察した。また、「禁錮」という刑が「官吏身分の剥奪」

をその内容であったとする鎌田重雄氏以来の通説に反する史料を漢代から宋元に至る史料から求め、自宅に「禁止錮閉」して子孫断絶への脅威を有することがこの刑の本質的な特色であったとする新たな視点を著者は提示し、この刑は肉刑を廃止するための代替刑として文帝期に設けられたのがその起源であったと推定した。こうした研究に加えて、インドから伝えられた仏教思想と中国の孝思想との比較をも試みている。

 

 

秦漢律における不孝罪

秦代に見られる不孝罪/漢代(武帝期以前)に見られる不孝罪/不孝罪の変遷/秦律から唐律へ

  漢代の不道罪  「不道無正法」について/大逆無道と大逆不道/「不道」の概念の成立について

漢代の不敬罪  不敬の語義について/不敬罪とその量刑/不敬・大不敬の時期的特徴

『張家山漢墓竹簡』奏讞書の和姦事件に関する法の適用――公士の贖耐について――

和姦事件と裁判の経過/本件の事件に関連して付記される律の諸規定/公士の贖耐について

  伝統中国における禁錮  官吏身分剥奪説とその問題点/伝統的禁錮の実態とその特色/錮と禁錮について/禁錮の概念の変遷/文帝の刑法改革と禁錮

『元典章』および『唐律疏議』に見られる伝統中国の不孝罪

      悪逆罪について/唐律における不孝罪/元代の不孝罪

伝統中国における「孝」と仏教の〈孝〉思想

原始仏教における〈孝〉思想/伝統中国における不孝罪の変遷/中国仏教における〈孝〉思想

 

 

第三部 中国古代史の基礎的研究

中国史研究者を悩ませてきた度量衡の問題と取り組んだ成果を提示し、尺度が殷より春秋戦国にかけて長大化し、これに伴ってマスが大型化していったことを跡づけた。さらにこの問題と関連させて、「黄金方寸、而重一斤」『漢書』(食貨志)の意味するところを追究し、秦と漢でとは貨幣制度が異なっていたことを究明した。また、これまで不明であった戦国から後漢にかけての穀価についてその推移を追跡し、平年作においては一石(二〇㍑)当たりの粟価が三〇銭から五〇銭へと、数百年かけて徐々に上昇したという展望を示し、かつて宇都宮清吉氏と布目潮渢氏によって成された論争を受けて(後)漢代の官僚の俸給に「半銭半穀」の

原則が確かに貫かれており、しかも官僚の俸給が穀物価格の変動を反映させるスライド制がくみ込まれていたことを検証した。また本書には歴史家司馬遷の『史記』叙述の視点が那辺にあったかを追究した筆者の初期の研究も含まれている。

 

『漢書』食貨志の「黄金方寸、而重一斤」について――「黄金一斤、直万銭」との関連――

『睡虎地秦墓竹簡』の效律の規定と度量衡/『里耶秦簡』および『嶽麓書院蔵秦簡』に見られる

甲の額と爵価/黄金方寸と標準金塊

中国の古尺について    

関野氏の方法論/関野説の問題点とその検討/歴代律暦志の記述と徂徠の方法論/大尺と小尺および度と量の関係/「尺」字の起源と「丈夫」について

漢代の穀価  

      戦国期より秦代までの穀価/前漢前期の穀価/前漢後期より後漢初期までの穀価/後漢の百官俸

給制と穀価/穀価の上昇傾向と後漢の穀価

後漢官僚の俸給制における半銭半穀  宇都宮氏の七銭三穀説と布目氏の半銭半穀論/半銭半穀の原則とその実態/漢代穀価の動向と後漢の俸給制

『史記』列伝のテーマについて

司馬遷の思想的立場と循環史観/伯夷列伝について/貨殖列伝について/「述而不作」について

あとがき・初出一覧・索 引

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