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対偶文学論

対偶文学論

◎中国古典文学における対偶表現を具体例を示しながら詳述――「対偶文学論」入門書

著者 繁原 央
ジャンル 中国古典(文学)
中国古典(文学) > 漢魏六朝
中国古典(文学) > 唐宋元
出版年月日 2014/04/03
ISBN 9784762995590
判型・ページ数 A5・246ページ
定価 1,980円(本体1,800円+税)
在庫 品切れ・重版未定
 

目次

Ⅰ 対偶文学論
第一章 中国文学の対偶表現
対の思想/『文心雕龍』麗辞/律詩の対偶/『楚辞』「漁父辞」の問答/蘇軾「前赤壁賦」の問答/
対偶的発想
第二章 『楚辞』「離騒」の思弁性
章段の分け方/前半の三行動/三段構成の繰り返し/三段構成と比喩/前半と後半の関係/乱辞について
第三章 白居易「長恨歌」の対偶的発想
   藤野岩友「長恨歌の終章と楽天の意図」/李夫人説話との関わり/「長恨歌」段落区分説/「長恨歌」
の三段構成と最後の二句/『楚辞』「離騒」前半との構成類似
第四章 「李娃伝」にみる思弁的展開
「李娃伝」について/後記の虚構/出世と没落と――「枕中記」との比較/操烈な婦人――「任氏伝」
との関わり/李公佐への対抗意識
  Ⅱ 唐代文学論
第五章 李白「秋浦歌」考
白髪三千丈/「白」のモチーフ/李白詩中の「白」の熟語/十七首の構成/詩と音楽と
第六章 「杜子春伝」の主人公の人物設定
   翻案小説としての「杜子春伝」/七情を忘る――主題について/杜子春の徳行と報恩/杜子春像の造形
第七章 唐代伝奇小説の創作手法
   唐代伝奇小説の成立背景/語りの場の改変例――「謝小娥伝」と「尼妙寂」/「鶯鶯伝」からの継承/
「李娃伝」の逆転継承――うらぎりの構図/義侠の士の助力――「柳氏伝」の流れ/中唐の文壇世界
第八章 唐代伝奇小説の描写法
三段階の描写/初期伝奇小説にみる反復法/中唐小説の三段階漸層法/正反合(止揚)三段構成法/
中唐小説の深まり方
第九章 「離魂記」の変容
   「離魂記」の系譜/元代から明代への展開/『酔翁談録』「張氏夜奔呂星哥」/公案小説の盛行/『雙槐
歳鈔』「陳御史斷獄」の公案化/二つの変容
  Ⅲ 比較文学論
第十章 兄妹婚始祖神話
貴州省侗族の伝承/中国民間故事集成の兄妹婚始祖神話/漢族の兄妹婚始祖神話の構成/漢代画像石の伏羲・女媧/文献にみる伏羲・女媧の記事/兄妹婚始祖神話の広がり
第十一章 日中の難題説話
難題モチーフ/古事記と北米インディアンの難題求婚譚/難題婿「一芸の達人」(H二一七)の場合/
難題婿「荒馬静め」(H三三一・一)の場合/難題譚と文化モチーフ
第十二章 歌垣とイトコ婚
   歌垣/トン族の恋愛と結婚/イトコ婚のアンケート調査/恋愛婚とイトコ婚/新洞村の規民約/中国少
数民族の「回郷」型と「上山」型イトコ婚/優先婚としてのイトコ婚 
第十三章 阿倍仲麻呂望郷歌考
「あまの原」の歌/漢訳詩と李白の「静夜思」/仲麿の交友関係と李白「哭晁卿衡」/淹留望郷として
の「天の原」の歌/「静夜思」と仲麻呂
附 録(1)中国文学史略年表 (2)中国関連地図  
あとがき

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内容説明

【第一章 中国文学の対偶表現 対の思想】より(抜粋)

本書で問題とする対偶表現は、漢詩にみられる対句をさすだけではない。対偶的発想をもった中国の文学作品についていうもので、それは例えば駒田信二の『対の思想』に、次のようにある考え方を指す。

 ここで私は〈対〉ということを考えてみる。松柏、花鳥などという併立的な対ではなく、是非、善悪、美醜などのいわば対比的な対である。たとえば、善と悪とを対立させるとする。そのとき、対立させた善は、あくまでも善として、内包する他の要素をみとめることをいさぎよしとしないのが、日本の大衆一般の観念的な好みなのである。「武士道とは死ぬことと見つけたり」という。そこには死に対立すべき生は考えられていない。強いていえば、死が即ち生だということになる。ここには対の思弁はない。対立させた善と悪とのそれぞれのなかにまた善と悪とを見る。そしてまた、その善あるいは悪のなかに、さらに対を見る。いさぎよいことを好む日本の大衆一般は、このような思考のくどさ、ねばり強さを好まない。

 中国に行くと宮殿・廟などの大きな建築物だけでなく、個人の家の堂(客間)などにも対聯(楹聯)をよく見かける。 ある物事を二つの文言で表現しようとすることは、中国において言語に根差し、生活に溶け込んでいる。文芸の方面でも律詩の対句だけでなく、六朝時代に体系化されたという漢字の音を表記する反切なども、同じ発想といえる。このことは仏典にも見ることができ、永平寺所蔵の「紫紙金字大般若経」(明代、宣徳五年一四三〇書写)の大般若波羅蜜多経の巻第四百三十の最後に、「音釈」として「芬馥」という語句に「上音分、下音福」という別の文字による音釈が書いてあった。さらに「腫」に「知勇切」とか、「疱」に「防教切」という反切が記してある。仏教経典の注釈であるが、中国での反切による発音を表記する方法が広く使われていったことがわかる。こうした一つのものを二面から表現したり、二面に表現したものから一つの全体をみたりする対偶表現をたどってみよう。

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