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汲古選書66 日中比較神話学

目次

第一章 桃と祭礼――記紀黄泉国伝承をめぐって
  桃と古代日本の神話伝承/黄泉国伝承と中国神話/黄泉国伝承と古代儀礼/黄泉国伝承と古代中国の祭
  祀儀礼/黄泉国伝承と追儺儀礼の関係/古代日本の追儺儀礼をめぐる誤解/追儺儀礼の受容と古代日本
の倫理意識
第二章 太公望と符命・冊命儀礼――倭国造の始祖伝承再論
倭国造の始祖伝承と太公望/「亀」、「亀甲」と符命/「打羽挙」の訓義/「打羽挙来人」と符命/倭国
造の始祖伝承に見る冊命の思想
第三章 桃源郷とアジール
事実と虚構のあいだ/桃源郷はアジールか/桃とアジール〔(1)「桃」の字義と特別領域――「兆」・
(2)「桃」と境界〕/禹と中国的アジールの性質/『桃花源記』の成立/『桃花源記』の以前と以降
第四章 漱石・魯迅・桃源郷
『草枕』と桃源郷/『草枕』と漱石の失楽園/『三四郎』の謎〔(1)「偉大なる暗闇」とは何か・(2)
「水蜜桃」、「桃の核子」と洞天福地・(3)「廣田」は仙人か・(4)「無器用」ということ・(5)「廣田」
という名前の意味〕/漱石のトポス/闇夜に夢見る桃源郷――魯迅の場合〔(1)闇夜と絶望・(2)「美
しい物語」と桃源郷・(3)陶淵明を否定する魯迅〕/桃源郷と救済
あとがき
索 引

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内容説明

【本書より】(抜粋)

文献学、中でも出典論と考証学は、ある意味で一種の「種明かし」の作業とも言える。これを無味乾燥、無駄な暇つぶしだと見る人もいれば、これに一生を献げる学者も数多くいる。客観的に見れば、「種明かし」は、その一貫して変わらぬ方法と態度でやや時代遅れの印象を与えるかもしれないが、作家論、作品論、とりわけ本文批判においても最もオーソドックスな方法として、流行りの抽象的な概念をひねりまわし、読者を高邁深遠な理論でもって煙に巻くより、遙かに有効であり、説得力のあるものである。無論、作者の知的な営みに参加する快楽をも味わわせてくれる。

本書の内容は、上代から近代までの日中文学の中から四つのテーマを選び、文献学と比較神話学の角度から考察したものである。それぞれ記紀神話、陶淵明、夏目漱石、魯迅を対象としているが、これらの論考には、統一した理論というものはない。強いて言えば、神話学の所謂「祖型の反復」という現象を四つの例に即して検証したものである。我々はある研究対象を、自分が立つ時点からさかのぼって観察することに慣れているが、一度古代から現在までの逆方向から見つめ直してみたら、まったく違う風景が、我々の目を刺激することを、四例を通して示したいと思う。これから読者の前に呈する「種明かし」の本書は、即ち遙か古代に形成した「祖型」という「種」が、それぞれの時代においてどのような「花」を咲かせているか、という観察ノートである。

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