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汲古叢書108 秦帝國の形成と地域 汲古叢書108

汲古叢書108 秦帝國の形成と地域

◎歴史舞台を実地調査し、『史記』記述の由来を確認するとともに司馬遷の記述しなかった事実を発見する

著者 鶴間 和幸
ジャンル 東洋史(アジア)
東洋史(アジア) > 殷周秦漢
シリーズ 汲古叢書
出版年月日 2013/03/31
ISBN 9784762960079
判型・ページ数 A5・616ページ
定価 14,300円(本体13,000円+税)
在庫 品切れ・重版未定
 

目次

序 論 秦帝国の形成と地域――始皇帝の虚像を超えて――
秦始皇帝の評価と史料批判/始皇帝の統一諸政策の再検討/秦公一号墓から始皇帝陵へ

第一編 統一と地域
 第一章 古代中華帝国の統一法と地域――秦帝国の法の統一とその虚構性――
  秦による法の統一の虚構性/律、暦法の統一/戦国秦律の六国地域への適用
 第二章 秦帝国による道路網の統一と交通法
  秦帝国による馳道の整備と巡狩/秦律に見える秦の交通法
 第三章 秦帝国の形成と東方世界――始皇帝の東方巡狩経路の調査をふまえて――
  東方巡狩遺跡の現地調査/秦始皇帝と斉の八神
 第四章 秦始皇帝の東方巡狩刻石に見る虚構性
  刻石の破壊と修復/刻石原形の復元/二世皇帝の東方巡狩と追刻/刻石文の形式とその内容
 第五章 秦帝国の統一と南方世界――楚・越の世界――
  秦楚の争覇――秦の統一まで――/秦越戦争――秦側史料の背景――/秦越戦争の証言――反秦側史料の整理――

第二編 歴史と伝説
 第一章 漢代における秦王朝史観の変遷(一)――賈誼『過秦論』、司馬遷『秦始皇本紀』を中心として――
  司馬遷『史記』の秦王朝史総論/賈誼『過秦論』の構成/『過秦論』と秦始皇本紀の異同
 第二章 漢代における秦王朝史観の変遷(二)
  前漢前期の秦王朝史論――司馬遷以前――/前漢後期の秦王朝史論――司馬遷以後――/後漢期の秦王朝史論
 第三章 司馬遷の時代と始皇帝――秦始皇本紀編纂の歴史的背景――
  秦始皇本紀の史料の性格と構成/司馬遷の地方旅行――始皇帝の史跡・伝説との遭遇――/司馬遷の武帝巡狩随行の旅
 第四章 秦始皇帝諸伝説の成立と史実――泗水周鼎引き上げ失敗伝説と荊軻秦王暗殺未遂伝説――
  泗水周鼎引き上げ失敗伝説/荊軻の秦王暗殺未遂伝説
 第五章 秦始皇帝と徐福伝説――秦帝国と東アジア世界――
  琅邪の徐市伝説/平原広沢の王徐福伝説/徐市・徐福二伝説生成の背景

第三編 水利・陵墓・都市・長城
 第一章 戦国期秦の三大水利事業――漳水渠・都江堰・鄭国渠――
  漳水渠/都江堰/鄭国渠
 第二章 古代巴蜀の治水伝説の舞台とその背景――蜀開明から秦李冰へ――
  巴蜀史記述の立場――『史記』と『蜀王本紀』・『華陽国志』――/禹王・開明治水伝説成立の背景/李冰治水伝説成立の背景
 第三章 始皇帝陵建設の時代――戦国・統一・対外戦争・内乱――
  戦国秦王墓の建設/統一と平和時における皇帝陵建設/戦時体制下における帝陵建設/二世皇帝による最終工程
 第四章 秦咸陽城のプラン――前漢長安城との比較からのアプローチ――
  戦国秦咸陽城のプラン/統一秦咸陽城への疑問/咸陽城・長安城の比較
 第五章 秦長城建設とその歴史的背景
  戦国秦の長城建設と故秦の形成/統一秦の二つの城塞――「河上の城塞」と「陽山の亭障」――「万里の長城」の実態

終 論 秦帝国史研究の総括と展望
 第一章 秦の統一事業の再考
  統一事業の功罪と論評/統一事業の記事の整理/統一と平和の時代/対外戦争の時代と始皇帝の死/二世皇帝の時代
 第二章 秦帝国史研究と地域
  三つの地域/中国古代史研究と地域/統一と地域
 
英文梗概/中文要旨/索 引

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内容説明

【緒言】より

本書『秦帝國の形成と地域』は、中国史上はじめて形成された秦帝国の形成史を地域に視点をおいた新たな見方でまとめたものである。

従来のこの分野の研究は、秦漢帝国として秦、漢両時代を一まとめにし、中国古代帝国の形成史論の視点から一九六〇年代に活発に進められたが、本書は秦漢帝国からいったん秦帝国の時代を切り離し、秦帝国の形成、崩壊の歴史に焦点を当てて分析したものである。それを可能としたものは、一九七五年以来の新出土竹簡文字史料の増加であり、そして一九七四年秦兵馬俑坑の発見に象徴される秦代考古学の進展である。

基本的文献であった司馬遷の『史記』に描かれていた秦帝国史を新たな史料から読み直すことが、本書での研究の中心課題である。そしてさらに、著者の独自なアプローチといえるものは、秦帝国の歴史の舞台を自ら実地調査を行なうことによって、司馬遷の秦史の記述の由来を確認し、また司馬遷の記述しなかった事実を発見したことである。この成果を著書としてまとめて刊行することは、一九九〇年代後半の中国古代史研究に大きな刺激を与えるものと期待できる。

さて本書の序論では、新たな秦帝国史研究を二つの方向からさぐるべきことを提起した。すなわちその一つは統一時期の十五年を特別に強調して切り離すのではなく、戦国秦以来の伝統性のなかで秦帝国の性格をとらえるべきことであり、もう一つは、後世の秦帝国、秦始皇帝に対する粉飾をできうるかぎり排除して実像に迫るべきということである。この問題提起を、つぎの第一編「統一と地域」では統一の実体を地域から明らかにし、第二編「歴史と伝説」では後世の秦王朝評価を歴史と伝説の問題からさぐっていった。そして第三編「水利・陵墓・都市・長城」では、とくに水利、都城、陵墓、長城という古代秦の大規模な土木事業に焦点を当て、戦国秦から統一秦の過程の時代を背景に読みとろうとした。文献史学と考古学とをどのように合体させていくのかという課題も、ここでは具体化させた。考古学者は文献史料の記述の確かな部分を発掘資料から求めていく手法を取るけれども、ここではむしろ逆に文献史料の不確かな部分を考古資料から明らかにし、文献史料に頼りきっていた歴史学者としての反省をこめて考察を進めた。

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