ホーム > 建安文學の研究

建安文學の研究

建安文學の研究

「女性」「少年」「國家」をキーワードに、國家を超越し新しい時代を模索した「建安文學」の特質に迫る!

著者 福山 泰男
ジャンル 中国古典(文学)
中国古典(文学) > 漢魏六朝
出版年月日 2012/03/16
ISBN 9784762929793
判型・ページ数 A5・408ページ
定価 12,100円(本体11,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

序 章 小著の目的と對象・方法および概略
目的と對象・方法/各章の概略/構成および配列/初 出
第一章 張衡「四愁詩」をめぐって――豔情の文學とその機能――
「四愁詩」の序文について/情詩としての「四愁詩」/「四愁詩」の受容/五言詩「同聲歌」の性愛表現/豔情作品の制作と受容/張衡における豔情の文學と陰陽思想の關係
補説 張衡「論貢擧疏」辨誤
第二章 趙壹の詩賦について
趙壹の活動時期――『後漢書』文苑列傳の訂正――/「窮鳥賦」と飛翔のメタファー/「刺世疾邪賦」と賦中の「詩」「歌」――士人の感懷を詠む五言詩の登場――


第三章 後漢末・建安文學の形成と「女性」
圖書目録から見た漢末魏晉の女性作家の位置づけ/後漢中・後期における女性作家の概觀/蔡琰と「悲憤詩」の展望/丁■の妻「寡婦賦」の展望
第四章 建安の「寡婦賦」について――無名婦人の創作と詩壇――
「寡婦賦」制作の背景/曹丕・王粲の「寡婦賦」/丁■の妻の制作とされる「寡婦賦」の作品性/「寡婦賦」をめぐる人的關係と詩壇/儒學・文學兩テクストから見る「寡婦」
第五章 曹操「十二月己亥令」をめぐって――文學テクストとしての「令」――
「求才三令」の書き方/文學テクストとしての「十二月己亥令」/論争的テクスト/書き方の不統一とジャンルを超えた文學性/自傳的散文――身の丈の記録――
第六章 曹植の四言詩について
「責躬詩」について/「應詔詩」について/曹植の四言詩と『詩經』/「朔風詩」について
第七章 曹植の「少年」
『史記』『漢書』における「少年」/樂府中の「少年」と「名都篇」/「野田黄雀行」の「少年」/「送應氏」の「少年」/曹植以後の詩人が詠む「少年」
第八章 曹植「白馬篇」考――「游俠兒」の誕生――
「白馬篇」の二重構造/糾合される「少年」から「游俠兒」の形象へ/典型・虚構としての「國難」/曹植の假想現實
第九章 曹植と「國難」――先秦漢魏文學における國家意識の一面――
先秦から漢にいたる文學上の國家意識/後漢末文學における國家意識/曹植の漢家意識/表象・虚構上の「國難」と「游俠兒」/「游俠」の文學的意味づけと「慷慨」
第十章 「悲憤詩」小考――研究史とその問題點――
『後漢書』董祀妻傳/一九五〇年代以降の「悲憤詩」眞僞論/一九九〇年代以降のテクスト研究
第十一章 「悲憤詩」と「胡笳十八拍」――蔡琰テクストの變容――
「悲憤詩」と「胡笳十八拍」の表現上の差異/「胡笳十八拍」作品群について/僞作「蔡琰『胡笳十八拍』」の形成/『後漢書』列女傳所収「悲憤詩」における「家」と「孝」
附 章 嵆康の「述志詩」――建安文學の集成として――
「述志詩」第一首について/後漢末三國時代における先行作品と飛翔のモチーフ/建安文學の集成としての「述志詩」/嵆康詩評と「志」/「述志詩」第二首について
あとがき・中文摘要・索引

このページのトップへ

内容説明

【本書より】(抜粋)

  漢末魏晉の王朝交代期、およそ百年にわたる政治社會の激變期は、文學が大きく變貌を遂げた時代であった。後漢末建安年間を中心に展開された建安文學は、それ自體のみならず、その前後の漢・魏晉文學を、受容・形成という觀點から理解する上においても、なお檢討の餘地を様々に殘している。

  建安文學に關する論及や論著は多々ある。にもかかわらず、以下の基本的な二點についてすら、いまだ曖昧な部分が多い。まず、建安文學の時代區分には、十分な論據にもとづく通説がない。また、「建安の風骨」のような建安文學を性格づける様々な概念の定義あるいは是非について、個々に解釋・理解が別れ定論がない。

(序章)より

小著は、後漢中後期から三國時代魏末にいたる百年あまりの射程において、「女性」「少年」「國家」等の側面から建安文學の再檢討を試みた。二世紀末から三世紀初めにかけての建安文學は、便宜的・習慣的な文

學史區分である。小著は、その前後の時代を含め、建安文學を形成・展開論から捉えなおすことを目指した。

從來、建安文學を魏晉南北朝文學の起點に置く文學史觀に對し、漢代、特に後漢文學との連續性・連關性に注目する觀點や考察は必ずしも十分ではなかった。また、建安文學に關わる「建安風骨」等、固有の批評語や概念は見直しが迫られている。したがって、建安文學内部あるいはそれに關わる批評への論及とは別に、その前後を含む文學テクストを個別に見ていく作業が必要となる。

小著は、いわゆる建安詩壇を中心とした從來の建安文學研究とは異なる立場から、詩壇外で文學的言説を發した曹操や、魏の黄初年間以後における曹植に注目した。また、前代との連續性・非連續性を際立たせることによって、建安文學の獨自性を捉えようとする觀點から、個々の作品群におけるモティーフとしての「女性」「少年」「國家」、および擔い手としての「女性」、また様式としての四言詩に目を向けた。小著では新たな試みとして、特に「女性」「少年」という周縁的な存在に視線を巡らせている。それは、これまで中心的に位置づけられてきた後漢末期數年間の建安詩壇を、建安文學の形成・展開における一つの通過點・結節點として相對化した必然の帰結である。一部ふれる以外、曹丕や建安七子に焦點をしぼる論及がないことは小著の不備とも言えるが、その背景には以上のような立場・方法論がある。(あとがき)より

このページのトップへ